第21回

文字数 2,725文字

「withコロナ」「新しい生活様式」という言葉が定着し、

御上がいくら笛吹けど、お出かけ気分で心躍るムードもなくなってしまった

かのような2020年・秋――。


しかし、ひきこもり暮らしの方がデフォ化している今こそ、

迂闊にダークサイドに引き込まれないよう、注意が必要なのだ。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、困難な時代のサバイブ術!

さて今回も「ひきこもり処世術」のお時間だが、聞かれるのが嫌なので先に言っておく。

「不労所得・生活編」に関しては皆様にお知らせ出来ることは一切ない。


一つお伝えできる有益情報があるとしたら、投資も数あれど、調べたかぎり老後の資産形成のために「FX」をお勧めしてくるようなライフプラン情報は一つもない、ということだ。


だがそれと反比例して証券会社の方は「FX口座開設で5000ポイント贈呈」など、FX激推し君なのである。


勘の良い方はお気づきと思うが、これは「リボ払い」と全く同じ構図だ。

カード会社は隙あらばリボ払いをお勧めしてくる。最近は勧めるのも面倒くさくなったのか、リボ払いが初期設定というカードもあるぐらいだ。

ドラクエでいえばステータスが「どく」状態でスタートしたようなものであり、歩いていた(普通に使用した)だけで気づいたら死んでいるという仕様である。


最近は私のように「1、2、たくさん」と3を待たずにバカになってしまうような人間でも、「仕組みは1ミリもわからないが、リボ払いはとにかくヤバいらしい」ということが周知されてきてしまったため「スマート支払い」など、名前を変えて心機一転再デビューしてくるケースも出てきた。


このように、銀行、カード会社、証券会社などが猛プッシュしてくるものというのは、会社の利益が大きい商品である。

つまり使う側の負担やリスクは高くなりがち、ということだ。

ちなみにFXと同様、ポイントをエサに証券会社が勧めているのが「信用取引」である。


ネットなどが発達したことにより、収入を得る方法が多様化したことがひきこもりとして生きる追い風になっているのは確かだが「それ以上に金を失える方法が多様化した」という向かい風で実質ちょっと後退してしまっているような気もする。


つまり、一秒でも早くひきこもりたいからといってあまり怪しい物に手を出すと、部屋から出ないどころか、何らかの漁船に乗って海の外にまで出ることになったりするので、焦りは禁物だ。


故に、私もさすがにFXをやろうという気にはならないのだが、ネットに転がっている「FXで大損した人の話」を見るのは好きである。

FXで大損した人がどれだけヤバいことになっているのか正確に理解するために、FXの勉強をしようかと思うぐらいだ。


このように、ひきこもりや老後資金を貯めるためにFXをやるのはお勧めできないが、FXで大損した人ウオッチという、金がかからず満足度の高い趣味のためにFXを勉強するのはお勧めである。


ひきこもりになるためには、収入を増やすより、まず支出を減らすことを考えた方が良いと前回言ったが、言うだけでは何なので、自分も改めて正確に家計把握をし、支出を減らす努力をしてみることにした。


このように「ひきこもりになりたい」「ひきこもりを続けたい」と言うと人生を捨てているように聞こえるが、逆にその目標が、生活を見直すきっかけにもなるのだ。


仮にひきこもりにならなかったとしても、家計を把握したり支出を減らすことは後の生活のためになる。

よって、本気でひきこもりになる気がない人にも「ひきこもりになるつもりムーブ」はお勧めできる。


以前、支出の95%が税金の月があった、と書いたが、再度確認したら税金が支出の90%を占めている月が、他にもふた月ぐらいあった。

相変わらず「俺にだけ別の税制が適用されている説」があるが、おそらくこれは私の節税知識が足りないのだろう。

以上のことからひきこもりには「知識」がとても大事ということがわかる。


知識がなければ、ひきこもり生活最大の敵が「国」になるし、知らないうちにFXをはじめたりリボ払いになっていたりするし最悪騙されるということさえあるのだ。

無駄な金を払わなくて良いように知識を持つことが、一日でも早くひきこもり生活に入り、そして、長くひきこもりを続けるコツである。


ちなみに、収入を低く、経費を高く虚偽申請をする、そもそも確定申告をしない、というのは節税知識ではなく、脱税なので気をつけよう。

しかし、日本の学校は、納税・勤労・教育は国民の義務ということは口を酸っぱくして教えるが、何故か正しい納税の仕方は教えないので、本当に悪意なく脱税してしまうケースもあるのだ。


わが校の生徒が、自分で確定申告が必要なフリーランスなどという迂闊な道に進むはずがない、という自信があるのかもしれないが、それは過信が過ぎる。

お国のために全員無職になるぐらいのつもりで、生活保護の申請方法まで教えてほしい。それで救われる命もきっとある。


つまり、税金以外では思ったほど派手な支出はない、ということがわかったのだが、時々支出が跳ね上がっている時がある。


それはソシャゲのガチャに「推し」が登場した時だ。


しかし、ミニマリストですら「己の心の豊かさのために必要な物」は捨てないのである。

そういう意味で言えば、ソシャゲの支出は削るべきではない。


だが「そのキャラが本当に欲しかったのか」というのはもっと精査すべきだろう。

「ガチャは股間で回す」と言う通り、股間が反応したガチャは迷わず回すべきという方針ではあるが、その股間がガバガバでは、すぐさま生活が破綻してしまう。


ひきこもり生活は病みやすいという側面がある以上、楽しみに対する支出は減らすべきでない。しかし「これは楽しみだから削れない」というハードルが甘すぎても駄目なのだ。


「身の丈にあった股間を持つ」。これもひきこもりにとって大事なことである。

★次回は9月25日(金)更新です。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中。

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