無駄花/中真大
文字数 1,322文字
丁寧に描きつづけた男がいた。
何百枚、何千枚とPOPに”想い”を込め続けるうちに、
いつしか人々は彼を「POP王」と呼ぶようになった……。
……と、いうことで、”POP王”として知られる
敏腕書店員・アルパカ氏が、
お手製POPとともにイチオシ書籍をご紹介するコーナーです!
(※POPとは、書店でよく見られる小さな宣伝の掌サイズのチラシ)
いちばん恐ろしいのはどんなに予防をしても自分が感染源になるかも知れず、誰もが人の生き死にを左右するような状況下に置かれていることだ。最も身近な大切な存在を消し去るかも知れない。もしそうなったとしたら法律的な罪には問われなくとも、一生涯、重い十字架を背負って生きなければならない。
当たり前の日々はなんと愛おしかったのか。失ってはじめて気づく。健康であることのありがたさ、そしてかけがえのない命の尊さ。多くの命と引き換えに生きていく上で最も大切な真理に気づかさせるのだ。
同時に世界には一つとして無駄な命がないということも。咲いても実を結ばない花であったとしても、そこにあるだけで価値がある。母なる種から生まれ出た意味があり、周りの花たちをより美しく輝かせる役割だってあるのだ。
一見「無駄」と思われるような余白が、成長するための伸び代となって人間たちは歴史を刻み続けてきたのかも知れない。
ささやかな幸せと微かな希望を抱きながらも、八方塞がりとなって内面に押し止めていた負の要素が爆発する。生まれ持った善なる部分をすべて暗黒に塗り固められた人生。憎しみに変わった愛ほど恐ろしいものはない。殺意は日常と隣合わせの場所にあったのだ。
この世のものではないものが取り憑いたかのように感じられた。この取り乱し方、常識ではあり得ないような力技なのだが、だからこそ無性に全身に突き刺さるのだ。
終盤は異様な高揚感と尋常ならない興奮に満ちている。そしてラストに見える理性と感性の混濁は、死に直面した生身の人間の肉声そのもの。
欲望に塗れた現実世界を超越して、宗教的な境地にまで到達したかのようだった。