「かわいい」をわたしに取り戻す~こども雑誌編集部が向き合う、現代の女の子像

文字数 1,643文字

イラスト/ハタノヒヨコ

2021年3月、最新刊ひみつのポムポムちゃん 夢みる歌姫』が発売となった「ひみつのポムポムちゃん」物語シリーズ。自分の見た目にコンプレックスを持っていた主人公りんごが、魔法の手帳をきっかけに「ひみつのポムポムちゃん」に変身し、一歩を踏み出してゆく児童文学です。

ポムポムちゃんは、こども雑誌「おともだち」から生まれた、漫画家ハタノヒヨコ考案のキャラクター。おしゃれに憧れるこども達の支持を集め、これまでにシール、マグネットなどを用いたきせかえシリーズ絵本やアプリ、作家の村山早紀による物語シリーズなど、幅広い展開を見せています。

「かわいい」の併せ持つ呪縛と祝福

本シリーズの鍵となるのは、「かわいい」という言葉。この言葉はプリキュアやリカちゃんなど、女の子のキャラクターを多く扱う「おともだち編集部」にとって、使い方ひとつで呪縛にも祝福にも変わりうる、繊細な言葉のひとつです。

「かわいいかわいいって、女をバカにしてるから言ってるんですよ」

WOWOWオリジナルドラマ『有村架純の撮休』のなかで話題になった台詞です。「自己主張しない、思わず守りたくなっちゃう」という、作品内の男性が思う「かわいい」有村架純像をばっさりと切り捨てています。

もちろん「かわいい」に含まれる意味は、ネガティブなものだけではありません。

物語の主人公、ポムポムちゃんが使うのが、「かわいいの魔法」。だれかがだれかをかわいい、と思うとき、この世界のどこかに、人の目には見えない「光の花」が咲く、という設定です。

この「かわいい」という言葉については、作者とも言葉を交わしながら慎重に進めました。たとえばりんごの「かわいくて、すてきなひとになりたいな」という一文は、最初の原稿「すてきなかわいい女の子になりたいな」から、言葉を変えています。

かわいい=女の子ではなく、あくまでりんごが自身のものとして受け止め、祝福の魔法としてゆく姿を見守りながら、読み手も自分にとっての「かわいい」ってなんだろう? と、改めて意識するきっかけになってくれれば、という願いを込めています。

「頑張れ」をそっとゆるめる

もう一つの鍵は、主人公の「自然さ」。シリーズ全体を通して、りんごは他者との幸運な出会いを積み重ねながら、とても自然に成長してゆきます。女の子の活躍を意識したとき、どうしても大人は、試練に立ち向かう、頑張る女の子像を求めてしまいがちです。しかし、自分の存在を受け入れ、他者の幸いをささやかにでも願う心こそが、全ての人間が使える魔法であるというメッセージを、この物語は軸に据えています。その象徴のように存在するのが、りんごのパパかもしれません。パパがりんごに何かを求めることはありません。ただ、自分の仕事である作家業を通して他者を幸せにしたいという気持ちを、りんごに伝えます。りんごはそれを受け取って、「わたしもみんなを幸せにする魔法を使いたい」と主体的に思うようになるのです。

ことばに新しく触れてゆく、こどもに向けた物語だからこそ、作者も編集部も、小さな言葉や行動ひとつひとつに細心の注意を傾け、日々更新してゆきたいと思っています。ポムポムちゃんをはじめ、キャラクターや物語を見るときに、少しだけ、その中の人間がどんな言葉を選び、どう動いているかを心に留めてみていただけると、面白いかもしれません。

村山早紀(むらやま・さき)

長崎県出身。『ちいさいえりちゃん』で毎日童話新人賞最優秀賞、第4回椋鳩十児童文学賞を受賞。『シェーラ姫の冒険』、『コンビニたそがれ堂』、『桜風堂ものがたり』(2017年本屋大賞ノミネート)、『百貨の魔法』(2018年本屋大賞ノミネート)など著書多数。

ハタノヒヨコ

漫画家・イラストレーターとして、子ども向け雑誌「おともだち」にて、『ひみつのポムポムちゃん』を好評連載中。著書に『ニーハオ パオパオ』『ふあふあコットン』、原案・絵として『ひみつのポムポムちゃん とつぜんのシンデレラ』など。

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