第2回

文字数 2,649文字

新型コロナウイルスの影響で、今「家から出ない」ことが何より尊ばれている。


つまり、時代が突然「ひきこもり」に追いついたとも言えるのでは?


ソーシャルディスタンシングを常に実践、かつ#Stay Homeでこそ輝く彼らにこそ学ぶべき。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする困難な時代のサバイブ術!

コロナウィルスの影響で、人類総外出自粛を余儀なくされている現在、ひきこもりが強さを見せつけている。と書いたが、別にひきこもりが天下を獲れる世の中になったというわけではない。


ただ強制ひきこもり生活で受ける精神的ダメージが常人より低いというだけでプラスがあるわけではなく、マイナスであることには変わりないのだ。


漫画家やライターなどは、基本的に家から出ずに出来る仕事の代表格のようなものなので、無影響に見えるかもしれないが、私も、新刊発売イベントが中止になったのを皮切りに、新刊発売直後に、それを売ってくれる場である主要書店が休業し、通販も日用品優先のため、在庫が補充されず、予定されていた仕事は延期、連載している雑誌は休刊するという、控えめに言って最悪な状態である。


書店が開いていたら、通販が動いていれば売れたのか、そもそも書店はお前の本を置いてくれるのか、というアナザープロブレムはあるが、そういうタラレバの話は感心しない。もっと現実を見るべきだ。


しかし「倒れる時は前のめり」という言葉がある。

前に倒れることにより、今よりもっと面白い顔になれるというポジティブシンキングだ。


状況が悪いことは確かだが、その中にも光明を一筋、幻覚でもいいから見出すべきだろう。


ひきこもりにとって今見える光明の幻覚といえばやはり「在宅」という働き方が急速に広まったことだろう。


外出自粛以前から「リモートワーク」という働き方は提唱されていた。

しかしそれを早くから取り入れたのは都会の大企業ぐらいのものである。


私の調べによると、「リモート(遠隔)」と言われたらスイッチを押すと謎の強振動しだす棒状のモノを想像し「ワーク」も「プレイ」の粋な言い方だと思っていた人が大多数、という結果が出ている。


AVを見るためにビデオデッキが急速に広まったように、強振動する棒であれば早く浸透したかもしれないが残念ながらそうではない。つまり「リモートワーク」が全国的に広がり一般化するにはもっと時間がかかるはずだったのだ。


それが、今回必要に迫られ、急いでリモートワークを導入する企業も増えた。

もちろん、依然出社やただの仕事持ち帰りをしている企業も多く、まだまだ一般化とは言えないが、浸透するスピードを格段に早めたことだけは確かである。



社会生活をしながらひきこもるには、やはり家で出来る仕事に就くのが一番である。

私などはそういう仕事をしてはいるが、いわゆるフリーランスである。


フリーランスは基本的不安定なのだが、今回、補償の面でも当初冷遇を受け、役所に行ってもまず相手にフリーランスとフリーターの違いを説明するところから始めなければいけない、という事態が起こったという。


確かに私も役人に「それ実質無職ですよね?」と言われたら「おっいいところに気付いたな?」と相手の胸ポケットにねり梅を入れてしまいしまいそうではある。


もちろんフリーランスはれっきとした働き方の1つである。良いところもある。


しかし、会社員に比べ、不安定かつ社会的認知度が低く、社会補償も低く見積もられがちで、有事の際、嫌な思いをしやすいということが実証されてしまった以上「ひきこもるために、まずフリーランスになりましょう」などと「可愛くなるためにはまず橋本環奈になりましょう」みたいなことは軽々しく言えない。


しかし、リモートワークならば、会社に所属しながら家で働くことが可能である。


コロナ終息後も、リモートワークが定着化すれば「家で働く」ことが普通になり、在宅社員の求人も以前より増える可能性がある。

これはひきこもり体質の人間にとっては、光明と言えなくもないのではないだろうか。


もちろん我が日本国のことである。終息後は「技術的にはリモートが可能だが、偉い人が何か嫌だと言っている」という理由でリモートワークが許されない、という可能性はある。


おそらく、家で仕事をさせるとサボるんじゃないか、という危惧があるのだと思う。


確かに環境によって集中できるできない、はある、キーボードの上におキャット様が鎮座ましまされたら、もはや人類如きになすすべはない。


しかし、思い返してほしい。どのオフィスにも一人ぐらい、ソリティアとエクセルを超高速反復横飛びしている奴がいるだろう。


サボる奴はどこにいてもサボるのだ。


ちなみにリモートワークになったことにより、今までそんなことをしなかった人間が、やたら女子社員と個別通話しようとしたり、プライベートな事を尋ねたりする「リモートセクハラ」をするようになった、という報告がある。



このようにコミュニケーションというのは、どのツールを使うかによって、全く人が変わってしまうのである。私がツイッターでだけ威勢がいいのと同じだ。


リモートセクハラは悪い例だが、逆にリモートワークになったことにより、今まで社内コミュニケーションや仕事のデキが悪かった人間がデキるようなったという例も必ずあるはずだ。


社員を能力を生かせる場に置くのも会社の采配の見せどころである。それは部署だけではなく、会社に置くか家に置くかでも変わってくる。


現在はリモートワークせざるを得ない状況になり、在宅向きでない人まで在宅になってしまっているという状況だが、終息後、会社に所属しつつも、社内勤務と在宅勤務が自由に選べるようになっていけば、格段にひきこもりが生きやすくなる。


だが、本当にそんな世の中になったら羨ましすぎるので「そんな働き方は不健全であり、会社に集結してこそチームワークが生まれるのだ」などということを言い出すかもしれない。



人はこうやって老害になっていくのだと理解した、羨ましいのだ。

★次回は5月15日(金)更新です。
カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。モーニングにて最新作『ひとりでしにたい』連載中。

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