小説版『スパイの妻』著者・行成薫特別インタビュー!

文字数 1,652文字

名匠・黒沢清監督がメガホンをとり、蒼井優主演、高橋一生共演でおくる映画「スパイの妻」が、第77回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞! 日本映画の同賞の受賞は17年ぶりの快挙です! それを記念し、小説版を手掛けた著者・行成薫氏への特別インタビューを掲載します。
行成薫

『名も無き世界のエンドロール』で第25回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。『スパイの妻』の小説版を手がける。著書に『廃園日和』(講談社)ほか。

ーー小説版の依頼を受けた時の印象をお聞かせください


ノベライズのお話が来た時は、二つ返事で「やります!」とは言ったものの、いやほんとにできるかな、と、後からめちゃくちゃ不安になりました。時代ものも初めてですし、企画書を読んだ時点で、あ、これ、いつものノリでふざけちゃいけないやつだ、とわかってしまったので……。

チャレンジだと思って、気合を入れてお引き受けすることにしました。



ーー小説版を作る上で力を入れたことをお聞かせください


脚本の世界観とストーリーの方向性は崩さずに、よりエンターテインメント性を強化できるように、構造的な仕掛けを作ったり、シーンやサブエピソードを追加しました。

小説は、役者さんがいるわけでも、映像が見えるわけでもないので、文字だけの媒体でどれだけ『スパイの妻』という作品を楽しんでもらうか、という点に一番力を注いだかなと思います。



ーー小説版を作る上で苦労したことはなんでしょうか


時代ものなら当然のことかもしれませんが、やっぱり時代考証が大変で。

船や汽車といった交通手段の当時の時刻表を探したり、作中のフィクションと史実をリンクさせたり、とにかく確認することが多くて、原稿が注釈だらけになりました。

小説版を読んでくださった知り合いの作家さんに、「なんだ、時代ものも書けるじゃん」と言っていただきましたけれども、当分やりたくないです(笑)。



ーー映画を観た時の感想についてお聞かせください


とても不思議な映画で、自分の感情をどこにおいていいのかわからなくなるんですよね。

感動して涙が出るとか、スリリングな展開にハラハラするとか、そういう単純な感情に置き換えられない、あらゆる感情がないまぜになったようなものが常に胸をひたひたと叩いてくるような印象でした。怖いのか、悲しいのか、切ないのか、自分の感情がわからないままエンディングまでぐいぐい引っ張られていき、エンドロールを見る頃には、「エンターテインメント映画を観た」という確かな満足感が残っている、という稀有な体験をさせていただきました。



ーー小説版の推しポイントはどこでしょうか


映画では実際にシーンとして盛り込むことができなかった(であろう)満州での経緯や、福原聡子・優作以外のサブキャラクターたちの顛末など、『スパイの妻』の世界をより広げた加筆部分が読みどころかなと思います。もちろん、映画のシーンやセリフをそのまま使わせて頂いている箇所もあるので、比べながら読んでいただけるとより楽しんでいただけるのではないでしょうか。



ーー最後になりますが、映画の推しポイントについてもお聞かせください


戦前の映画を思わせるセリフ回し、光を巧みに使ったカット、長回しなど、近年の邦画とは一味違う独特の表現が見どころだと思います。終盤へ向かうにしたがって狂気に染まっていく蒼井優さんの演技は、圧巻の一言。個人的には、クライマックスシーン、あるモノクロ映像とともに流れるBGMに度肝を抜かれました。選曲センスがハンパない。

ただ、モノカキとしてこう言うのはどうかと思いますけども、言葉では伝わる気がしないので、是非劇場でお確かめください(笑)。

映画は10月16日より全国劇場で公開中、

小説版は全国書店・電子書店で発売中です!

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