第100回

文字数 2,439文字

世界で一番使われているSNSはインスタであり、他のSNSとはかなり差があるらしい。

だが、日本の使用者数は「Twitter」が一位だそうだ。


つまり「日本にはインスタキャラよりもTwitterみたいな野郎の方が多い」ということだ。

インスタキャラやTwitter野郎がどんな奴かわからなくても、とりあえず「国辱級の悪口」であることだけは伝わると思う。


しかし遺憾に感じているのは日本ではなく、Twitter側の方のようで、どうにかしてインスタになろうとしていることは、ここ最近のTwitterのアップデートを見れば明らかである。

むしろインスタになるためになりふり構っていない様が、オシャレを好むインスタ側の人間にウケないのではないだろうか。


しかしTwitterが目指しているのは単なるオシャレSNSではなく、世界中の人間と積極的にコミュニケーションを取ることを目的とした「外に開けたSNS」ではないかと思われる。


この時点で、裏垢女子や男子などが大量発生してしまう日本が、いかにTwitterにとってお呼びでないかがわかる。

実際Twitterを国内一使っている国にもかかわらず、Twitterは日本のことをそこまで重要視していないようで、新機能も他の主要国より実装が遅く、投げ銭機能も日本でよく使われている決済方法はほとんど対応していないという有様だ。


つまり、Twitterが行うアプデのほとんどが我々に不評なのは「そもそもお前らに向けて作ってないから」という説もあったが、では海外では好評かというと不評らしい。


Twitterは、既に誰の方にも向かわない独自の戦いに入った、もしくは海外でも「日本人みたいな野郎」が好んで使っているということだ。


そもそもTwitterは最初から全世界の人間と繋がれるツールなのだが、それこそ鍵垢にしたり、フォローする人間を厳選し、RTの非表示や、ブロックやミュートを駆使することで閉じようと思えばかなり閉じられるツールでもあった。


だがそれが気に食わなかったのか、最近のTwitterは「お前が選んだ奴のつぶやきだけじゃなく俺オススメのつぶやきも見ろよ」と、TLにTwitterがアルゴリズムで選んだと思われるつぶやきをかなりの頻度で出現させるようになっている。


つまり、ミュートやブロックで高い壁を築き、厳選された頼もしいフォロー部隊を前に「これで勝つる」となっている我々エレンの元に、Twitter社という巨人が壁をぶっ壊して乱入し、フォロー部隊を食い荒らしているという状態である。


なんでそんなことをするかというと、ただ単に我々のTLをはちゃめちゃにしてやりたいだけかもしれないが、自分の選んだものしか表示されないようなTLでは新しい出会いや、今まで触れたことのない世界とのつながり、というTwitterが本来使ってほしい使い方を阻害するため、Twitter自らユーザーがせっかく築いた壁に風穴を開け、新風を撒き散らしているのではないかと思われる。


もちろんこれはTwitter野郎の被害妄想に過ぎないが、実際自分が意図してないつぶやきがTLに出現する仕様に対しては概ね不評であり、Twitterの圧倒的進撃に対してユーザーは、Twitterにいつの間にか収集されていた、全く覚えのない「あなたが関心を持っているワード」を地道に消去するなど地道な抵抗を続けていた。


だがついに先日、Twitterはユーザーが作り上げたTLではなく、Twitterが選んだトピックやどこかの誰かがRTやいいねしたつぶやきが表示されるTLを、「ホーム画面」としてTwitterを開いた瞬間それが出るように仕様変更してしまったらしい。


これにはチー牛しかいないでお馴染みのTwitter民も全員リヴァイになったようで、その猛反撃に対する「スワイプ一つでお前らのドブ川が表示されるようにしたぞ」という和解案すら許さず結局「元に戻す」という、Twitterにしては異例の「ユーザーの意見を聞く」事態となった。

他のツールならこれが当たり前かもしれないが、Twitter社がこれをやるのは奇行種と会話が出来たぐらいの異例なのである。


これはひきこもりへの対処にも似ている。

今回Twitterがやったことはひきこもりの部屋に乱入し「いつまでも部屋に閉じこもってないで外の世界に目を向けろ」と、窓どころか壁を四方破壊したに等しい。


それをされてひきこもりが素直に外の世界の素晴らしさに気づくかというと、そんな乱暴なことをする相手に猛反発するか、こんな恐ろしい人間が跋扈している外の世界とやらに、ますます恐怖心を抱くだろう。


従来のように自分のTLにちょいちょい自分の知らん奴が混じっているという状態であれば、文句を言いつつ我慢できてたし、そのTwitterが勝手に表示させるつぶやきがきっかけで、新しい世界とつながった人間もいなくはないだろう。


ひきこもりの周辺の人間がすべきことは、強制的に外に連れ出すことでも、無理矢理外の世界を見せることでもない、ひきこもり本人が外に興味を持つように、さりげなく「仕向ける」ことである。


しかし、これほどひきこもりに対してデリカシーのない動きをするTwitterが、なぜ我々引きこもり気質の人間に支持されているのか。

人を救うために作った薬が、人を殺すために利用されるようになったかのような悲劇である。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

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