第73回

文字数 2,497文字

暑すぎる夏が逝き、そろそろ秋でしょうか?


中途半端な気温でひきこもりにとって、エアコンの設定がわからなくなる困った季節。


キノコ生えるお部屋の底で、奇声をあげながらインターネットのみんなで輪になって踊る。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!

今朝やっとコロナワクチンの予約を取ることができた。

もちろん予約はインターネット経由だ。電話窓口など使用したら「わ、ワク…ちんちんちんちんちちーん!」というただのY談おじさんにやられた人になってしまい、職員の方に申し訳が立たない。


ところで先日、菅総理大臣が総裁選挙に不出馬を表明したそうだ。

「つまりどういうことだってばよ」と、そろそろキッズに通じないことを言おうとしている中年が100万人はいると見越してか、その横に「事実上の辞任」と書いてくれていたのでネットニュースというのは親切である。


菅内閣が誕生したことで、私のソフトバンク株が暴落したのがまだ記憶に新しいので、割と短命内閣になってしまったということだ。

確かに首相の時給がいくらかは知らないが、いくらもらっても今の状況で首相をやるのは割に合わない気がするし、少なくとも1000円以下ではやりたくない。


しかしどうせ辞めるなら、「マンボウ」とか海洋生物の名前を連呼しはじめたあたりでもう辞めたかったと思う。

一体何が決定打になったのか、いつも通りこの世で一番信頼できる情報機関、ツイッターで調べてみたところ「進次郎しか味方がいなくなったから」だそうだ。

もはやこれまで、とはまさにこのこと。むしろ今まで痛みに耐えてよく頑張った。


このように、インターネットがあるから私のようなひきこもりでもチンチンリザーブが出来て、さらにどうやら国のトップが変わるらしいということも知ることができるのだ。


これがなかったら未だに私の中では平成34年ぐらいであり、万札のことも永遠に「諭吉」と呼び続けたと思う。


だが、ツイッター民が3つ以上の物が映っている画像をすぐ「情報が多い!」と言って理解を放棄するように、入ってくる情報が多すぎて逆に思考停止になることも少なくない。

それに情報というのは手に入れた時点で完結ではない。正確に理解し有効利用できなければ意味がない。


それをダイエット商品と同じように、手に入れた時点で「完」している場合もあるし、理解もしていなければ関係もないのに「この件につきましては」と自らのお気持ち表明という、おいしいところだけ食おうとしてお叱りをいただくこともしばしばだ。


さらに情報が多いということは、どれを信じるか自分で選ばなければいけないということである。

そして情報は数が多ければ多いほど、その中に混ざる誤情報やデマの量も増えていく。


そこで情報の取捨選択を誤ると「トイレットペーパーを買い占めすぎて自分が寝る場所がなくなる、1回休み」という、却って情弱よりもマヌケなことになってしまったりする。


情報が統制されていた時は、指名できる嬢が一人しかいないようなもので、それを選ぶしかないし「これが最高の女なんや」と信じるしかなかった。

しかし、選べるようになったことで迷いが生じるようにもなったし、自分で選んだ結果地雷だったということもある。


今回のワクチンに関しても、「これを打てばコロナなんかオギャーですわ」という情報しか入ってこなければ、多くの人がそれを信じてオギャりにいくだろう。

しかし、現在はその対抗馬として、ワクチンを打つとむしろ死ぬ、不妊になる、5Gに繋がる、などの情報が出ており、それがネットなどを通じて誰でも目にすることができるため、見た人の中にはそれを信じてワクチンを打たないと決めた人、信じないまでも不安に思い、打つのを躊躇している人もいると思う。


今のところ、ワクチンは体に有害、5Gに接続もデマということになっているが、「地球は回っている」と言った人間を奇天烈大百科扱いした前科がある我々人類だ。

5Gを信じずワクチンを打った者が、来月当たり次々と5Gに接続している可能性もなくはない。


このように現在は情報が溢れすぎている上、その真偽を個人で確かめるには限界があり、情報を集めて捗らせるはずが、情報に縛られて身動きが取れなくなったり、地雷を踏んで爆発四散することも増えてきたような気がする。


つまり、情報というのはたくさん仕入れるより、「入場制限」を設ける時代がすでにきているのかもしれない。


世の中の情報量は増える一方で、それを保存する端末の容量も右肩上がりだが、それを処理する人間の脳は永遠に8ビットであり、しかも一定年齢を過ぎるとそれすら減っていく。


容量以上の物を「せっかくだからもろときますわ」という精神で詰め込んで行ったら、パンクしてしまうのは当たり前である。


ネットを見ていると、良く考えたら自分には全く関係ないニュースに一日中憤慨しているということがある。

自分ではない何かのために涙を流して怒るのも必要かもしれないが、先ほど終わった洗濯を干す、など他にもやらなければいけないことはたくさんあるはずだ。


料理であれば「出されたものは食う」のが礼儀かも知れないが、情報はそうではない。自分に合うもの、必要なものだけ食う、そして食いすぎないことが大事である。


さもなければ消化しきれず腹をくだすし、特に必要な栄養も得られなかったということになってしまうのだ。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

★次回更新は9月24日(金)です。

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