町田 康②

文字数 1,383文字

町田康さんが猫との暮らしを描いたエッセイは、2000年4月に「猫の手帖」で連載が始まった。以後、「FRaU」、「Grazia」に連載され、『猫にかまけて』『猫のあしあと』『猫とあほんだら』『猫のよびごえ』と4冊の本となって刊行された。

行き場をなくし、生命の危機に瀕している猫たちを連れ帰り、治療を受けさせて世話をする。それでも別れは訪れる。日々を淡々と丁寧に、写真とともにつづった作品に溢れる猫たちの愛らしさと生命の尊さ。長い人気を誇るベストセラーシリーズを紹介する。


写真/扉:但馬一憲  他すべて:町田康・町田敦子  

※2016年IN★POCKET11月号より      

『猫にかまけて』講談社文庫


ゲンゾー(1991〜2004/享年13歳/おす)

愛想が良く「お手」もできる気のいい猫。突然部屋の中をダッシュする、柱にぶらさがるなど遊び好きで、町田さんにとって兄弟のよう、友人のようだった猫。2004年の秋、突然様子がおかしくなり急逝した。

「しかるに自分は、やれ犬くさい奴だ、とか、穴熊の血が混じっているのではないかなどと、ゲンゾーの悪口ばかり言っている。ごめんな。ゲンゾー。」


   ***


「ある日のことである。私が自宅でギターを弾いているとゲンゾーが足元にきて床に背中をこすりつけ腹を出してころころ転がった。

 なぜそんなに機嫌が良いのだ、と訝ったがどうやらゲンゾーはギターの音に反応していることに気がついた。そこで試しに高音弦を弾いてユニゾンで、「ゲンゾー、ゲンゾー」と歌うとますます喜び、立ち上がって私の足首に頭脳をこすりつけ始めた。」


奈奈(2002〜/14歳/めす)

保健所前に捨てられていた白地に雉トラのヘッケによく似た猫。気が強くパンチが得意。どんどん増える新しい猫を敵視していたが最近は体調がすぐれず個別に食事をもらっている。

 「そんなことになるのもナナが並外れて気が強いからである。例えばどういう風に気が強いかというと気に入らぬことがあるとすぐに喧嘩をふっかける。

 しかもその方法たるやいたって直截で、人間であれば、「なにメンチきっとんねん、こら」などと一応、言語で因縁をつけるのであるが、ナナの場合そんなことはしない、いきなり目を三角にして、両手両脚を広げ、真っ赤な口を開けて鬼のような形相で相手につかみかかっていくのである。」 


エル(2004〜/12歳/おす)

保護団体の人に連れてこられたときには生命の危険に瀕していたが、献身的な看病の結果、元気な猫に成長した。手から餌をもらうなど特別扱いをされてきたため、性格は王子。黒猫。

「黒猫がやってきたのは夕方であった。 ケージのなかに入っている猫をみて私も家人も驚愕した。 あまりにも小さかったからである。」


   ***


「車で病院に連れていく。 脱水症状甚だしく、腎臓が機能せず、尿毒症で危篤。体重10グラム減って220グラム。骨と皮。 エルを診察した医師は、「普通ならもう諦めてくれと言うが、やってみたい治療がある。一か八か賭けになるが、その治療をやりますか」と言ってくれた。 私たちは、「お願いします」と言うしかなかった。 エルはこの世に生まれて一ヵ月でこの世から消えようとしていた。」


(『猫にかまけて』より)   ※ねこプロフィール内年号は町田家にいた年

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