『掟上今日子の鑑札票』刊行記念クロスレビュー#3

文字数 1,449文字

西尾維新の大人気シリーズ「忘却探偵シリーズ」の最新作がついに発売!

タイトルは『掟上今日子の鑑札票』――

シリーズ13作目であり、「必読の一冊!」と編集部が熱弁する本作の発売を記念して、

ミステリをこよなく愛する3名の著者によるクロスレビューを、短期集中連載!

最終回は、啓文社西条店の書店員・三島政幸さんです!

非日常的な事件と想定外な展開。その先に浮かび上がる「掟上今日子のルーツ」

三島政幸


掟上今日子。忘却探偵。どんな難事件でもわずか1日で解決し、そして翌日にはすべて忘れてしまう。守秘義務を地で行く名探偵――だった。

今回の事件までは。


「僕」こと、隠館厄介は、某大企業の重役の暗殺未遂の犯人にされようとしていた。重役を狙った弾丸が仕事中の僕がいた部屋から発射された、という疑いをかけられたためだ。僕は当然、今日子さんを呼んだ。いつものように「初めまして」と挨拶され、現場検証をする今日子さんだが、そこで彼女もまた銃撃を受けてしまう。一命は取り留めたものの、今日子さんは「忘却」ではなく、完全に「記憶喪失の探偵」となってしまった。全ての謎解きのキーワードも、不可能犯罪も、ましてや「探偵」の意味すら憶えていない、もはや「探偵」ですらなくなってしまったのだ……。


ところが、今日子さんの災難はこれだけではない。

狙撃に続き、仕掛けられた地雷、戦車による砲撃……なんでこんな非日常的なことが、と思わずにはいられないような事件が次々に起こる。そして、たいてい、隠館がその巻き添えを食らう。

ここまでして今日子さんを襲う犯人の目的はなんだろうか? 今日子さんから「探偵」の資格を剝奪するためか? それとも……。そして隠館の前に、今日子さんの過去を知るという、予想外の人物が現れるところから、また思わぬ方向に話が進んでいく。


この後半の展開で、細かなミステリ的要素が畳みかけるように折り重なり、最初に起こった事件からは想像もつかないような物語と化していく。あれあれ、これ、掟上今日子シリーズだよな? と確認したくなるくらいに。

そして行きつく地平には、あっと驚くメタな構造が待ち受けている。(このくらいは書いてもネタバラシにはならない、と信じたい)


ガチガチの本格ミステリではない、あえて言うなら「逸脱系本格ミステリ」の雰囲気たっぷりで、著者が次々と繰り出すカードを見ているうちに、実はこっちの方ではこんなことになっていたのでした、みたいな、巧みなミスディレクションで翻弄するマジシャンのようなテクニック満載。そして、シリーズ最大の謎のひとつでもある、掟上今日子のルーツを知る一冊にもなるだろう。


なおこのシリーズ、これほどの大きな物語になりながらも、まだまだ続きそうなので、ご安心を。


『掟上今日子の鑑札票』

著:西尾維新 illustration:VOFAN

発売日:2021年04月22日

定価:1,540円(本体1,400円)

ISBN 978-4-06-522792-3

四六判ソフトカバー・256ページ


推理力を奪われた今日子さんのため、相棒・厄介(やくすけ)が奔走!

シリーズ最大の敵にどう挑む? タイムリミットミステリー!


「天井に書かれていた文字。あれを書いたのは私だ」


殺人未遂事件の容疑者にされた青年・隠館厄介。

いつも通り忘却探偵・掟上今日子に事件解決を依頼するも、

その最中、今日子さんが狙撃されてしまう。

一命を取り留めた彼女だったが、最速の推理力を喪失する。

犯人を追う厄介の前に現れたのは、忘却探偵の過去を知る人物だった――。

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