巻頭企画「超怖い物件」人気作家による恐怖の物語/小説現代9月号
文字数 1,713文字

「小説現代」9月号が発売中。担当編集者3名が見どころをご紹介します!
★夏は恐怖こそ醍醐味! 「超怖い物件」
実は、講談社にも怖い噂がありました。
私が、児童雑誌の編集部にいたころのことです。
講談社の離れの位置に、戦前は財閥系の屋敷だった物件を買い上げた別館がありました。
そこの作業室で、撮影用のロボットジオラマを制作することになりました。
その屋敷には「出る」という噂で、構成者はあまりそこで作業するのは気が進まないようです。霊感のない私は気にせず構成者を手伝っていました。
何体もあるロボットの位置関係や手足の角度を調整したりして、凝り性の構成者による作業は意外に長引き、気がつくと終電も終わっていました。
ミシミシと女が泣くような音をならす人気のない廊下を往復してトイレから帰ってくると、体は大きいくせに妙に気が小さい構成者が、
「何か聞こえない?」と私におそるおそる聞きます。
私は、
「いえ、なにも」
と答えるしかありません。心霊体験など絶対共有したくないからです。
その屋敷の地下には座敷牢もあった、という噂もあり、「出る」というのはあながち根拠のない話でもないのです。
しばらくして、構成者は体を震わせながら、「もう今日は作業出来ない、切り上げたい」と私に告げました。
まだ作業途中でしたが、やむを得ずジオラマはそのままにして、深夜タクシーで帰宅しました。
構成者はそれから体調を崩して編集部を離れてしまい、もう講談社に来ることはありません。
後年、屋敷も取り壊され、いまは綺麗なオフィスビルが建っています。
特集「超怖い物件」は、とっておきに怖い怪談小説10連弾です。
事故物件サイト管理人・大島てるさんが受け取ったという恐ろしい脅迫の手紙を題材にしたものとか、身の毛がよだつものばかりです。
ぜひお楽しみいただければ幸いです。
(担当:T橋)
★大塚 愛、小説家に。
シンガーソングライターの大塚 愛さんが初めて小説を執筆!
今回執筆されたのは恋愛小説や自伝的小説でもなく、ホラー小説。
リニューアル復刊後「小説現代」にミュージシャンの方が寄稿されるのは、初めてのこと。2010年、2012年に絵本を出版され、マルチに活躍される大塚さんが今「物語」を書いたら、どのようなものが生まれるのか非常に興味がありました。
祖母の家で起きる奇妙な出来事の数々。開けてはいけないものほど、開けたくなってしまう。
地下室のアルミシートに覆われたもの……そこにはーー。
完成したホラー短編「開けちゃいけないんだよ」は、おぞましさを感じさせる筆致で、文中の「音」の描写が一層恐怖をそそります。暑い夏にぴったり、ゾっとする小説をお楽しみください。
小説以外に、特別インタビュー「どんなに暗くとも、どんなに重くとも、小説は受け止めてくれる」も掲載しております。
こちらも必読です!
(担当:Y下)

★「戦争を書くこと、語ること」
戦後75年に当たる今年、「現代ビジネス」と「小説現代」で共同企画を行います。
そこで「小説現代」では、「戦争を書くこと、語ること」をテーマに、下記の3つの企画を掲載いたします。
まず一つ目、石戸諭氏を聞き手に、現在第一線で活躍する中堅・若手作家の真藤順丈、深緑野分、小川哲各氏が、【沖縄×ベルリン×カンボジア 想像力は境界を超える】というタイトルで、過去の著者などを元に、戦後75年がたった今、戦争を書くことの意義について語り尽くします。
次に、石戸氏と歴史家・辻田真佐憲氏が、「新しい『国民の物語』をつくるために」というタイトルで、ノンフィクションの観点から、今、戦争を書くために求められていることを掘り下げました。
最後は、真藤順丈の「宝島」シリーズ外伝の最新作「五つ目の石」を掲載いたします。
いずれも30代から40代前半の中堅から若手の最前線の書き手に絞って、戦争と現代社会をテーマに縦横無尽に語って頂いております。
どうぞ、ご期待下さい。
(担当:K)