『人類最強のヴェネチア』/山口美幸(Veia)

文字数 2,088文字

読書好き&デザイナー志望者必見シリーズ!

プロのデザイナーが、「本」のデザインについて語るエッセイ企画『装幀のあとがき』。

今回は「最強シリーズ」(講談社ノベルス)と人類最強の最新作『人類最強のヴェネチア』をご担当していただいた、Veiaの山口美幸さんに筆を執っていただきました。

書き手:山口美幸

所属会社:Veia(ヴェイア)

ツルモトルームを独立した斉藤昭により1996年設立したデザイン事務所。宣伝・ロゴ・書籍・メディアパッケージ・グッズデザインなど、作品の世界観を広げるデザインが得意です。

portfolio:http://estudioveia.tumblr.com/

twitter:@estudioveia

ヴェイアではデビュー作から今日に至るまで、たくさんの西尾維新作品をデザインさせてもらっています。

私は戯言シリーズや、美少年シリーズなど担当してきました。


『人類最強のヴェネチア』のデザインにあたりまず最初の編集さんとの打ち合わせにて、戯言シリーズから連なるヒロイン・哀川潤の物語初の単行本形式での出版、さらにトラベルミステリーであることを押し出した装丁にしたいとのご意向である旨伺いました。


ゲラを拝読させてもらったところ、今までのキャラクターの強さはそのままに、ヴェネチアというリアルにある場所での活躍が今までとは違い新鮮かつストロングポイント!と感じました。


読後の興奮冷めないうちに、まずは用紙の選定から。

今までシリーズが刊行されてきた講談社ノベルスや講談社文庫では、フォーマットデザインや用紙の選定があらかじめ別のデザイナーさんによってなされているので、用紙や本文の文字組みをする必要はないのですが、今回はそこから始めねばなりません。


全体的にカラーやイラストが映えつつもエンボス感のある用紙を多用しようと決めていました。

手触りで感じる違いはリアルな本ならではの特権なので。

表紙は以前から片面だけ赤いのが印象的!と思っていた用紙を迷わずチョイス。

本文は文字組みを読みやすく王道な感じにしたので、それが映えるような白度が高いけれど目にも優しい用紙で。

遊び紙はカバーや表紙の色との兼ね合いと、ミステリーらしさで黒い紙をチョイスしました。

色を立体的に遊べるところは装丁の楽しい作業の一つです。

次にイラストです。哀川潤といえば、竹さん。

竹さんが描く、戯言シリーズから連なるキャラクターたちが、グラフィカルで、エッジあるテイストで描かれるシリーズでもあります。

その竹さんにどんなイラストを描いてもらうか。

ノベルス版最強シリーズでは4作すべて竹さんのイマジネーションの赴くままにカバー全体を彩ってもらっていましたが、今回は今までやってない新しい試みとして、こちらで先にラフを用意しそれに合わせて竹さんに装画していただくという形になりました。


イタリアといえば、赤と緑と白(国旗のカラーまんまですね)。

そして哀川潤といえば全身赤をまとった人類最強の請負人!

新しく作品に触れる読者にもどんなキャラクターかひとめでわかるように、今まで以上に真っ赤赤赤な哀川潤さんを描いてもらいたい!という旨竹さんにお願いしました。

そして上がってきたのがこちら。

深いブルーグリーンのバックに佇む、全身赤をまといヴェネチアンマスクを手にした哀川潤さんと、

相棒たち、作品に象徴的な水のモチーフのイラストを仕上げていただきました。

もうこれだけでヤバヤバのヤバな素敵イラストなのですが!

トラベルミステリーであることをもう少し強調したく、さらには画面に奥行きと空間が出るようにヴェネチアらしい背景を追加することにしました。

竹さんのイラストを邪魔しないよう、色合いを調整しつつ…の作業です。

タイトルデザインについては、今までのシリーズではかなりエッジをきかせたタイポグラフィにしてきましたが、ここも今までとは変えてほぼ打ち文字でシンプルに読みやすいタイトルに。

こうして、イタリアンカラーの表紙ができました。

完成したラフ一式を編集さんに送り、可否をドキドキしながら待っていたところ、お返事が。


曰く、山口さん、OKです。箔押し使えます!!


私:はいっ!?!?!?(箔押しお願いしたっけ…?)


なんでも文三部長の特別な計らいで箔押しが使えることに!

ヴェイアに詳しい読者さん(がいるかどうかはわかりませんが)ならばご存知のことでしょう。

令和の三羽烏と名高い弊社、光りもの大好き事務所なのです。

これは受けないわけにはいかない戦い…!

ということで、箔押しも追加され超ゴージャスに生まれ変わった最終版がこちら。

箔押しのような費用も時間もかかる加工は先に決めて作業するのが常なのですが、この作品はそういった過程とは違ってライブ感が楽しい一冊になりました。

結果的には、部長の計らいの妙もありつつ、内容を象徴するような装丁に仕上がったのではないかと思います。

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