『転生歴史ものの楽しみ方』/入月英一
文字数 1,401文字

『転生歴史ものの楽しみ方』
本作、『信長と征く 転生商人の天下取り』は、タイトルからお判り頂けると思うが、いわゆる転生歴史ものである。
ウェブ小説の文化から興隆したこのジャンルの大きな特徴は、歴史小説でありながら、主人公が現代人(読者)と同じ価値観や、知識を有し、かつ、現代人の言葉を以て語り手となることだ。
その利点として、誰もが真っ先に思い当たるのは『分かり易さ』であろう。
歴史にそれほど精通していない人や、歴史小説を読み慣れていない人でも、分かり易く噛み砕かれた『転生歴史もの』は受け入れやすいものとなっている。歴史小説の入門編として最適であり、十分にお楽しみ頂けるかと思う。
成る程、入門編。では、歴史小説の愛好家には物足りないのか? と思われるかもしれないが、これは誤りである、と筆者は思う。
歴史に精通している読者ならではの楽しみ方もあるのだ。
元々『信長と征く』は、ウェブ連載という形で公開されていた小説であるのだが、ウェブ上の感想欄では、筆者も舌を巻くような歴史知識豊富な読者諸氏から、ある種の感想が寄せられることが多い。
それは、主人公源吉が難問にぶち当たり、それを如何にして乗り越えるのか? という場面で送られてくる。
曰く『きっと源吉は、このようにして難問をクリアするに違いない!』という先の展開を予想する感想であったり。
あるいは、『こうこう、こういう理由から、このような手を取るのが最善であるかと思います』といった、提案に近い感想が来ることも多い。
何故このような感想が多いのか?
それは、現代知識を持った主人公が如何に歴史に介入していくかが、『転生歴史もの』の肝であるからだ。
現代知識を持つのは、読者も同じ。つまり主人公と読者は、同じ条件下にあると言えなくもない。
だからこそ、歴史知識豊富な読者は、自分が主人公と同じ立場になったらどうするか? と頭を悩まし、導き出した各々の答えを、感想という形で送って来られたのである。
これが中々どうして、本編を楽しむのと同じくらいに楽しめるのだ。
自らの予想が当たっていても、あるいは外れていても、読者諸氏からはまた、嬉々として感想が送られてくるので、間違いないだろう。
これから本書を読まれる方も、是非同様の楽しみ方を試されては如何だろう?
例えば、作中では信長から『新たに天下の名茶器を創り出せ』と難題を出される場面がある。
ここで一旦頁を繰る手を止めて、主人公はどうするだろう? と予想したり、あるいは、自分ならどうするかと考える。
然る後に続きを読み、実際に主人公がどのような行動を取ったかを確かめる。
自分の予想と合致していれば『当たった!』と手を叩き、主人公が自分の予想を上回ったなら『その手があったか!』と膝を叩き、もしも主人公が予想を下回ったなら……『主人公もまだまだだな』と悦に浸られれば如何だろう?
そのような読み方も、一風変わった楽しみとなるに違いない。
入月 英一(イリヅキ エイイチ)
兵庫県西宮市出身。関西大学経済学部卒。
2018年、『魔女軍師シズク』(ヒーロー文庫)でデビュー。著書に『信長と征く 1 転生商人の天下取り』(本書)、『信長と征く 2 転生商人の天下取り』がある。