第4話 ショートカット
文字数 1,766文字
幸せなはずなのに悲しくて、苦しいけれどかけがえが無い。
そんな私たちの日々が、もしもフィクションだったら、どんな物語として描かれるでしょうか。
ごめん(https://instagram.com/gomendayo0?igshid=1rh9l0sv9qtd2)
さんが、
あなたの体験をもとに、掌編小説・イラストにしていく隔週連載。
この物語の主人公は、「あなたによく似た誰か」です。
きみに決めてもらわなくても
白いラインの外側にいる。足元に目を向けると、なんだか自分がひどく惨めに思えるから、見ない。
大学から駅に向かう道は、人通りがそこそこ多いにも関わらず歩道がない。友達と帰るとき、あたしはいつも車道側が定位置で、路側帯を示す白いラインから少しだけはみ出て歩く。別に決まりじゃないけど、桃香や美紀の方があたしよりずっと弱く見えるから、無意識にそうしてしまうのだ。思えばあたしはいつも、みんながいる場所から少しだけはみ出している。
「ねえねえ見て、由奈と並ぶとカップルみたい」
笑いながら、桃香があたしの左腕に抱きついた。ゆるく巻かれたロングの髪があたしの肩に当たって、ほのかに香水の匂いがした。男だったらイチコロだろうけど、桃香がこういうことをするのはあたしが女だからだ。
「あはは、ほんとだ」
美紀がこちらにスマホを向け、シャッター音が数回鳴った。ああ、この写真ストーリーに載せられるだろうな。あたしって多分、誰かを可愛く見せようとするとき、便利なんだな。
撮られた写真を見て、あたしは桃香との違いを再確認する。桃香よりも10センチは高い身長と、メンズの黒いジャケット。自分でも男子に見えるくらいのショートカット。あたしは桃香みたいに髪を伸ばしたことは一度もない。
「男の子みたいでかっこいいね」
昔からそう言われることが多かった。実際子供の頃から、女の子たちとままごとをするより外に出て男子に混ざって遊ぶことの方が多かったし、気楽で性に合っていたんだと思う。ピンクより青が好きだったし、スカートよりズボンが好きだった。
「男の子みたい」という言葉は時々、無自覚な悪意を含んであたしに飛んでくる。
「男の子になりたいの?」
「女の子らしくしたら?」
ナイフみたいな鋭さではないけれど、確実な痛みだった。多分みんな、ラインからはみ出している人を、どこかのラインの内側におさめたくてしょうがないんだ。
あ、今日も来てる。
あたしはいつも通り、レジのバーコードリーダーに自分の名札をかざして、商品をスキャンしていく。コンビニでバイトを始めてからまだ2ヶ月ほどだが、常連客の顔はもう大体覚えてしまった。30代後半くらいだろうか、180センチは超えているであろう身長の、男性。男性、だけど、長い髪を後ろでひとつに束ねていて、少しだけ化粧もしている。
「120円のお返しです」
あ。
お釣りを渡す瞬間、彼の爪が青緑色に光っていることに気づいた。あたし、この色すごく好き。
「綺麗ですね、爪」
咄嗟に出た言葉に自分でも驚いた。あ、ごめんなさい突然、と言おうとする前に、彼が照れた様子で口を開いた。
「昨日初めて塗ってもらったんよ。」
嬉しそうだった。すごく。あたしも、なんだか嬉しかった。
バイトの帰り、あたしは白線の上を歩いてみた。長く長く続いていると思っていた白いラインは、暫く歩いたらあっけなく途切れてしまった。家まであと1キロくらい。気付けばスニーカーを鳴らして走っていた。あたしはあたしのことが、決して嫌いじゃない。
ごめんさんが、あなたの体験をもとに、掌編小説・イラストにしていきます。
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