『法廷遊戯』/小口翔平(tobufune)
文字数 2,423文字
そう-てい【装丁・装釘・装幀】
書物を綴じて表紙などをつけること。
また、製本の仕上装飾すなわち表紙・見返し・扉・カバーなどの体裁から製本材料の選択までを含めて、書物の形式面の調和美をつくり上げる技術。
また、その意匠。装本。
『広辞苑 第七版』(岩波書店)より
第1回は、7月15日発売の第62回メフィスト賞受賞作『法廷遊戯』(五十嵐律人)の表紙デザインを担当していただいた小口翔平さん(tobufune)です!
tobufune 小口翔平と申します。
ブックデザイナーとして活動していますが、
作り終わったデザインについて後から話すことはあまりなく、
言葉を添えてプレゼンすることもほとんどしません。
本を買う読者にその言葉は伝えられないので、
作る側も同様の条件で見て考えてほしいということと、
説明するのが面倒ということもあります。(←ほぼこっちです)
ですが、今回せっかくこういう場をいただいたので、
『法廷遊戯』の装丁を作る過程で考えていたこと、
特に今回のデザインの核となる装画について書こうと思います。
作品の内容についてはここでは書きませんが、
まず読ませていただき、おもしろーーーい! となりました。
装丁で使えそうな言葉を探しながら読んでいたのですが、
それどころじゃなくて序盤で探すのやめましたよね。
司法試験に合格している新人作家さんと聞いていたのですが、
これから日本を代表するような作家のデビューに立ち合ってるのではないか。
海堂尊さんの医療もの、池井戸潤さんの銀行もののように、
五十嵐律人さんの法廷ものはいずれ書店を席巻するかもしれない。
大げさに聞こえるかもしれませんが、そんなことを考えるほどおもしろかったんです。
(仕事にプレッシャーはあまり感じないのですが、10年後20年後にデビュー作として忘れられない装丁にしたいなどと、調子に乗ったことを考えて勝手に緊張してました……)
王道ミステリーの重厚さもありエンタメ性も高い、それを表現する装丁を考え、
・表紙は登場人物でいきたい(エンタメ性を感じるかも)
・王道の強さを出すためにできれば顔で(引きも寄りもありかな)
・イメージが固定されないように表情は隠したい(ミステリー感も出るかも)
ぐらいのイメージを持ちながら日本、海外、イラスト、写真問わず様々な装画候補を探し、
試作を繰り返しながら榎本マリコさんにたどり着きました。
(榎本さんに依頼する前にサイトから絵を拝借して作ったラフ)↓↓
編集者からもOKをいただき、
榎本さんにお願いしてお引き受けいただきました。
榎本さんへのこちらからの発注は、
主人公3人のうちの1人である女の子の顔がリンドウの花で隠れているイメージ、
暗く怖い印象にはしたくない、鮮やかで華やかな印象にしたい。
ラフのレイアウトは気にせずに絵が優先で、みたいな感じだったと思います。
(もし余裕があれば残り2人の男の子も袖に入れたいという無茶な提案も……)
そして届いた最初のイラストラフ。
さすがです。もうイメージにかなり近い。
ですが、花をもっと強く、
表情もまだ見えすぎと思い、
花を広げて顔をもっと隠してほしいこと、
仮面のようにも見えるので、
花が顔から溢れ出ているようにしてほしいと修正をお伝えしました。
第2イラストラフです。
伝えたことは直っているのに自分が思っていたのと少し違う、
こちらの伝え方のミスです。
花は広がったがまだ仮面のように見える。
青と白の花がバランスよく配置されていることで綺麗に見えるが強さはまだ足りない。
顔の隠れ方はいい。
なので、あくまで青い花がメインとなるように白い花の面積は減らす。
花を横に広げて仮面感をなくし、外に溢れ出ているようにと再度お伝えし……
最終ラフ、素晴らしいです。
これで本描きをお願いしました。
あとは完成の絵を楽しみに待つだけです。
そして届いた完成イラスト……。
最高です。テンション超上がりました。
これでいい装丁ができなければデザイナーが悪いやつです。
完成の絵を見ながら、再度デザインを考えた際、
潔いデザインで絵を立たせたいと思い、
タイトルなどのレイアウトをラフから一新して、
絵を真ん中に、より安定感のあるデザインにしました。
(元のデザインは怖い印象が強すぎるとも思っていました)
色は全体に原画よりコントラストを上げて明るく鮮やかな方向に、
花の色は最後まで悩み、濃い青と明るい青の2種類の色校正をお願いして、
書店での見え方、受ける印象を考えて最終的に明るい方になりました。
背景は花の色を立たせるためグレーに。
(色の調整は榎本さんの確認も取りながらです)
技術的なことを少しだけつけ加えると、
青い花、白い花、葉、髪、肌、服、唇と
すべてレイヤーで分けてそれぞれ色を調整しています。
できればでお願いしていた2人も描いていただきました。
(ありがとうございます!)
毎回思いますが、これが正解という装丁はないように思います。
が、自分なりの仕事はできたかなと思えることはあります。
今回は本を読んで思い描いたおぼろげなイメージに、
榎本さんの絵によって輪郭をつけてもらえた気がしました。
できた~と思ったんですよね。
私はデザインをする時間の9割以上は憂鬱なのですが、
いいデザインができていく時だけ楽しいと思えます。
この仕事は、またしばらく憂鬱な時間を続けてもいいと思えるほどの
楽しい瞬間を感じることができました。
ありがとうございました。
tobufune 小口翔平
1981年大阪府生まれ。FUKUDA DESIGNを経て、2011年「tobufune」を設立。
ブックデザインを中心に、エディトリアル、映画の宣伝美術、展覧会広告、ロゴなど、様々な分野で活動しています。