第53話 大河内に関する情報をツイッターで探る立浪だが

文字数 2,918文字

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「お前が俺を誘うなんて珍しいな。大雨でも降るんじゃないのか? いや、巨峰(きょほう)みたいな霰(あられ)かもな」
 鈴村(すずむら)が皮肉っぽい口調で言うと、ビールのグラスを傾けた。                 
 神泉(しんせん)のバー「アンニュイ」の個室――立浪(たつなみ)はツイッターの投稿記事をザッピングしていた。
「アンニュイ」のマスターとは十年来の付き合いで、行き詰ったときによく利用していた。
 
 『#大河内ヤクザ #大河内ひとでなし #大河内愛人 #大河内帝都プロ #帝都プロ暴力団
 
 立浪は大河内(おおこうち)に関連するハッシュタグをランダムに追った。
 SNS全盛時代の現在では、週刊誌の記者もツイッターやインスタグラムでネタを探すのが主流になりつつあった。
 無駄な労力と経費を使わずに、著名人の目撃情報や暴露(ばくろ)情報を入手できる。
 暴露情報に関してはほぼガセネタだが、中には掘り出し物のスクープも紛(まぎ)れていた。
 大河内はタレントでもスポーツ選手でもないが、かなりの数のハッシュタグがつけられていた。
 立浪は#大河内ひとでなしをタップした。
 
 大河内が所属タレントのMをデリヘルに売り飛ばしたという話を知り合いの風俗関係者から聞いた。Mは六十分で五十万円の値がつけられているらしい

 立浪はスルーした。
 ガセネタでなくても、この程度では大河内の息の根を止めることはできない。
 ほかの投稿も二流週刊誌にあるような安っぽいネタばかりだった。
「おいおい、人を呼びつけておいて携帯ばかり見てるつもりか?」
鈴村が不満そうに言った。
 立浪は無視して、#大河内殺人犯をタップした。 
 
 俺の彼女は「帝都プロ」に所属していたグラドルだった。俺との付き合いに嫉妬した大河内に追い詰められた彼女は青山通りの陸橋から身を投げた。

スルーした。

「帝都プロ」の大河内社長は敵対する事務所の社長を、バックについているヤクザに拉致させて山に埋めたそうだ。

 スルーした。
 十件、二十件……信憑性(しんぴょうせい)の欠片(かけら)もない投稿が続いた。
「いい加減にしないと帰る……」
「一ヵ月以内に花巻(はなまき)さんのスクープを『スラッシュ』に掲載しろと命じられた」
 立浪はツイッター投稿のザッピングを続けながら切り出した。
「え? 花巻さんのスクープってなんだよ? 命じられたって誰に?」
 鈴村が口元に運びかけたビールのグラスを持つ手を止め、訝(いぶか)しげに訊(たず)ねた。
「花巻さんは脱税した五億を都内に借りた数件のマンションに分散させているそうだ」
 立浪は言いながら、あるハッシュタグで視線を止めた。
 #大河内子煩悩をタップした。
 大河内と子煩悩(こぼんのう)という対極的なワードの組み合わせが気になったのだ。

「帝都プロ」の大河内社長の秘密を晒します。
 大河内社長には二十代の頃に離婚した一人息子がいます。
 達臣という名前で現在二十五歳です。
 別れた奥さんの姓を名乗っているので、大河内社長の子供と気づく人はほとんどいません。
 なぜ母親の姓を名乗っているかの理由は知りませんが、達臣が大河内社長の子供であることは間違いありません。
 私は大河内社長の愛人の子供であり、達臣の腹違いの弟です。
 大河内社長はああ見えて子煩悩で、幼い腹違いの兄弟をプールや釣りによく連れて行ってくれました。
 父のおかげで私達は仲良く育ち、学生時代もなにをするにも行動をともにしていました。
 達臣は父親に似て大胆で気が強く、私は母親に似て消極的で気が弱い性格でした。
 だからいつも私達の行動を主導していたのは達臣でした。

「五億の脱税!? 誰からの情報だよ!?
 鈴村の質問に立浪は投稿記事を読むのを中断して顔を上げた。 
「大河内だ」
 立浪は鈴村を見据えつつ言った。
「大河内!? どうして大河内がそんなことを知ってるんだよ!?
 鈴村が身を乗り出した。
「大河内と花巻さんは以前から、ネタを売り買いしていた仲らしい」
「なんだって!」
 鈴村が驚きの声を上げた。
「ネタの売買をしているうちに、多くのことを知られたんだろう。いつか花巻さんが自分を強請(ゆす)ってくるだろうから、その前に潰(つぶ)しておきたい……そう言っていたよ。どうやら、『リアルジャーナル』にスパイを潜らせているらしい」
「なっ……」
 鈴村が絶句した。
「これで花巻さんが大河内と密会していた理由がわかったよ」
 立浪は言うと、スマートフォンのディスプレイに視線を戻した。

 同じ高校の先輩後輩だった達臣と私は、授業が終わるとよく遊びに出かけました。
 ネットカフェに行ったり、街でナンパしたり……なにをやるにも達臣が主導権を握り私はついてゆくという感じでした。
 ある日、ナンパした女子高生を車に連れ込んだ達臣がドラッグ入りの缶チューハイを吞ませました。
 因みにこの女子高生は七年間行方不明で家族から捜索願いが出されています。
 この話の続きに興味のあるマスコミ関係の方はDMにてご連絡ください。

                                   

「『リアルジャーナル』に潜り込ませてる大河内のスパイって誰だ?」
 鈴村が訊ねてきた。
「さあな」
 立浪は生返事をし、ツイッターの投稿記事を凝視していた。
「さあなって……お前、さっきからなにを見てるんだよ!?
 イラついたように訊ねてくる鈴村に、立浪は無言でスマートフォンを差し出した。
「なんだよ?」
「とりあえず読んでみろよ」
 立浪が言うと、怪訝(けげん)な顔で鈴村がツイッターの投稿記事に視線を走らせた。
 普通なら歯牙(しが)にもかけない投稿だった。
 この手の記事はほぼガセネタだ。
 だが、立浪の中でなにかが引っかかった。
「なんだこりゃ? 大河内に子供がいるとか、でたらめだろ?」
 投稿記事を読み終えた鈴村が、鼻を鳴らしながらスマートフォンを戻してきた。
「連絡を取ってみるよ」
 立浪はDMの欄を開いた。 
「おいっ、冗談だろ!? こんなのガセネタ丸出しの投稿記事だってわからないのか!?
 鈴村が呆(あき)れた顔で言った。
「もちろんわかってるさ。でも、万が一ってことがあるだろ? ガセならガセでそれだけのことだ。別にこっちに損失はないわけだし。もしガセじゃなかったらゴミ山からダイヤを発見したようなものだ。花巻さんが切り札を使わない以上、なんとしてでも大河内を抹殺(まっさつ)する新しい爆弾を探さなきゃならない」
「なるほどな。で、花巻さんの脱税の件はどうするつもりだ? まさか、記事にする気はないよな?」
 鈴村が心配そうに念を押してきた。

(第54話につづく)

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