第15回

文字数 2,512文字

東京を中心に、コロナ感染者が再び激増し、政府肝いりの”Go Toキャンペーン”も迷走している。

隙あらば、BBQやシャンパンタワーに興じたいという向きには、まだまだ厳しい時代が続きそうだ。


「ひきこもりこそ世界を救う」という千年に一度のパラダイムシフトが起きつつある今、どうすれば人類が生き抜けるのか、意外とためになるヒントが、そのライフスタイルからは見えてくる。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、困難な時代のサバイブ術!

「馬鹿共に車を与えるな!!」


美味しんぼの登場人物海原雄山の希代の名言である。


この「雄山」の名に恥じない雄々しい初期雄山の姿を知る者からすれば、後半の雄山は嘆かわしいとしか言いようがない。


しつこすぎる息子の嫁と、伝家の宝刀「孫」の懐柔によりすっかり丸くなってしまった。

昔の雄山なら己の孫にすら「貧乏人の子どもには米国の揚げた芋でも食わせておけ」ぐらいは言うはずである。


そんなありがたいお言葉と同様に「陰キャに時間を与えるな」という言葉がある。

ネガティブな人間に無駄に時間を与えると、暗いことばかり考えて勝手に鬱になってしまうのだ。

忙しくてももちろん鬱なのだが、時間が出来たら出来たで「よし時間が出来たから手首でも切るか!」となってしまうのが陰キャというものである。


よってそういう人間に時間を与えても自壊するだけなので、まだ地下室で奴隷が回している謎のアレでも回させておいた方がマシなのである。


今回の自粛ひきこもり生活でメンをヘラってしまった人は、それと同じような状態になってしまったのではないか、と思う。


家で一人、外にも出られずやることもなく、入ってくるのはテレビやネットからの暗いニュースだけとなったら、暗くない人間でも気づいたら「悪い想像」ばかりして不安になってしまうのだ。


そもそもひきこもり生活というのは「己の悪い想像」との戦いなのである。


ひきこもりは、ひきこもることにより社会や他人という外敵がいない生活を勝ち取ったはずなのである。

だが何故かそのうち、戦闘民族サイヤ人としての血が騒ぎだしてしまうのか、わざわざツイッターとかでちょっと腹ただしいニュースを仕入れてきて、それを脳内で「我が好敵手」になるまで育て上げ、どちらかが死ぬまで戦い始めるのである。

もちろん両方自分なので、自分が死ぬ以外の結末はない。


何故そういうことをしてしまうか、というとやはり「他にやることがない」からである。


今忙しい人は、家にひきこもって一日中何もせず過ごしたい、と考えているかもしれないが、それを続けすぎると、暇すぎて己との電流金網デスマッチを始めてしまい、病院(心)に担ぎ込まれることになる。


よって、どれだけ時間があっても「夜は焼きそばにして、残りはパンにはさんで朝食べよう!」というような明るいことしか考えないというタイプ以外は、ひきこもり生活において「何もすることがない時間」というのはあまり作り過ぎないほうが良い。


つまり、趣味でも何でもやることを作った方が良い、ということだが、ここでも少し注意が必要だ。


リアルシャドーと戦うぐらいなら、ゲームしたりアニメでも見ている方がマシなのだが、一つぐらいは「クリエイティブな時間の潰し方」を作った方が良い。


テレビを見たりゲームをしたりといった、「他人が作ったものを消化するだけの時間」というのは長時間続けるすぎると頭がぼんやりしてきて、そのうち「無気力状態」に陥ってしまうのである。

そうなると、もはやゲームやアニメを見たりする気も起きなくなるし、ましてや仕事や家事など、気が乗らないことなど全くする気が起きなくなる。


つまり、やることがない、ではなく、やることがあるのに出来ない状態になってしまうのだ。

そしてやるべきことをせずに何をしているかというと、ソシャゲの周回などひたすら単純作業、もしくは暗い事を考えてしまい「キャラが全部自分の大乱闘スマッシュブラザーズ」の開幕である。


よって、一日のうちわずかでも、自分の頭を使うクリエイティブな時間を持った方が良い。


クリエイティブといっても、作詞作曲歌い手オレ、みたいな高度な事はしなくても良いのだ。


もちろん、漫画を読んだら今度はそのキャラを使って、自分で吐き気を催すほど卑猥な漫画を描いて見るなど、クリエイティブかつ他人の脳まで刺激してくれるような活動ができればそれに越したことはない。


だが万人にそれができるわけではないので、例えば料理とかでもいいし、ゲームをするにも攻略サイト通りに指を動かせば終わる、というようなものではなく、「お前以外はあつまれどうぶつの森」みたいな名前のゲームのように、自由度の高いものを選んでみるのもよい。

映画を見た後、ネットに感想という名の自分のお気持ちを長文で書いてみるというのも十分クリエイティブである。


どうしても何もする気が起きず、ネガティブなことを考えてしまうというときは、潔く「寝る」というのも大事である。


アルコール依存症治療でも、どうしても飲みそうになったら、睡眠薬を飲んで寝るという力技が推奨されているぐらいなので、無駄に暗い事を考えて鬱になるぐらいなら、意識を失った方が良い。


しかし、することがないから寝るための酒を飲むということを繰り返すと、今度はアルコール依存症になってしまう可能性がある。


つまりひきこもり生活は上手くやらないと、鬱かアル中かという地獄の二択になってしまうということだ。


そういう時は「外に出る」という第三の選択肢も視野に入れてほしい。

★次回は8月14日(金)更新です。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中。

★他の『ひきこもり処世術』はこちらから!

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