『さよなら日和』には、実はあの〇〇な小ネタが詰まってるんです!

文字数 2,171文字

行成 薫さんの最新文庫『さよなら日和』が、いよいよ8月10日(木)発売! 実は本作の中には、行成さんのある小さなこだわりのネタがあちこちにつまっているんです! それを知れば、本作をより一層楽しめること間違いなし! 裏話も交えた、行成さんのエッセイをお届けします!

さて、8月10日に発売されました僕の文庫新刊『さよなら日和』ですけれども、すでにお買い求め下さった方もいらっしゃいますでしょうか。偶然、発売日が僕の誕生日になりまして、もう四十も半ばで祝う歳でもないですが、なんか嬉しいですね、こういうの。


本作品は2018年4月に刊行した『廃園日和』という作品の文庫化です。単行本刊行時は、なんとタイトルを一般公募しまして。本作は老朽化と客数の減少で廃園が決まった遊園地の最後の一日を舞台とした連作短編なのですが、「廃園」というネガティブワードと「日和」というほんわかワードのミスマッチ加減がとても良かったなあと思います。文庫化にあたって新規タイトルをつけることになりましたが、元タイトルのソウルは引き継ぎつつ、『さよなら日和』といたしました。


僕はもともと自分で書きたい題材があんまりないタイプなので、新刊の企画をいただいても、はて何書こう? と、ノープランの状態で打ち合わせに行く癖があります(よくない)。こういうの書け、って縛ってほしいんですよね。マゾなので。本作の企画段階でも「題材は自由」と言われた僕がまともなアイデアを出さないので、見かねた当時の担当さんが「遊園地とかどう?」と提案して下さったという経緯がありました。その時、僕の背後に都内の某遊園地のポスターが貼ってあったから、という理由なんですけど。今思えば、ユルい出発点から始まったよなあという印象の強い作品でございます。


ただ、それでも当時の僕には自由度が高すぎて、喫茶店で「もうちょい強めに縛ってほしい」なんて担当さんにお願いしまして。隣の席の方は、いったいなんなんこいつら、と思っていたことでしょう。全部人任せにするのもさすがにアレなので、最終的には自分で縛りを設定しましたけど。所謂、セルフ緊縛というやつですね。縛りの内容は、「章ごとに遊園地のアトラクションにまつわるテーマソングを設定して、曲をオマージュして話を作る」というもの。当時、小説に音楽の要素を取り込むことになんかしらんけど凝ってたんですよね。


例えば、一話目は中学生の男女がジェットコースターに乗る話。僕世代の方だと、ぱっと浮かぶのは真心ブラザーズの『ループスライダー』じゃないでしょうか。二話目はゴーカート。フィーチャーしたのは、TRICERATOPSの『赤いゴーカート』。幕間には遊園地のスタッフたちを描いたショートストーリーを挟みましたが、チャラン・ポ・ランタンの『さよなら遊園地』という曲がテーマになっています。この曲、まさに本作そのもの、という感じの曲なので、一緒に聴いていただけるとより作品世界に色彩がつくんじゃないかと思いますね。


他にも、ともさかりえ『カプチーノ』や、ザ50回転ズの『さよならヒーロー』と、アトラクションに引っ掛けたテーマソングを設定した章もあります。メリーゴーランドを眺めに行く老夫婦の章では、hide with Spread Beaver『HURRY GO ROUND』、観覧車の章では竹仲絵里『サヨナラ サヨナラ』をチョイス。それぞれ、曲を聴きながら読んでみていただけると、「味変」ぽい楽しみ方ができるんじゃないかと思います。


こういった小ネタを埋め込もうと思ったのは、将来、僕にもハルキスト的な熱狂的ファンの方がついて、その方々が作品を深掘りするときに楽しんでもらいたいな、と思ったからなのですけれども、まあ、デビューから10年経ってもそんなファンがつく気配が微塵もないので、折あらば積極的にバラしていくスタンスに変わりつつあります。本作品の刊行頃から、僕の作品には細かすぎて伝わらない小ネタがちりばめられるのが常態化したので、よかったら、本編と一緒に小ネタ探しも楽しんでいただけたら幸いです。

「別れ」は止められないけれど、止まった「想い」は動かせる。


閉園をむかえる遊園地を訪れた人々。

彼らの「さよなら」が繋がったとき、心に染みる奇跡が起こる!


閉園が決まった遊園地・星が丘ハイランドパークの最後の一日。訪れるのは、淡い思いを秘める中学生に、離れて暮らす息子と遊びにきた父親、認知症の妻をかかえた老人と、ワケありな人ばかり。営業終了時間が迫る中、なんの縁もない彼らの人生が交錯するとき、小さな奇跡が巻き起こる!  心温まる傑作群像劇。(単行本『廃園日和』を改題。)

行成 薫(ゆきなり・かおる)

1979年宮城県生まれ。東北学院大学教養学部卒業。2012年に『名も無き世界のエンドロール』で第25回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。同作は2021年に映画化された。第77回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞した映画「スパイの妻」の小説版を執筆。2021年に『本日のメニューは。』が第2回宮崎本大賞を受賞。他の著作に『バイバイ・バディ』『ヒーローの選択』『僕らだって扉くらい開けられる』『怪盗インビジブル』『できたてごはんを君に。』などがある。

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