誘拐屋のエチケット/横関大
文字数 1,205文字
丁寧に描きつづけた男がいた。
何百枚、何千枚とPOPに”想い”を込め続けるうちに、
いつしか人々は彼を「POP王」と呼ぶようになった……。
……と、いうことで、”POP王”として知られる
敏腕書店員・アルパカ氏が、
お手製POPとともにイチオシ書籍をご紹介するコーナーです!
(※POPとは、書店でよく見られる小さな宣伝の掌サイズのチラシ)
著者の横関大は2010年『再会』で江戸川乱歩賞を受賞してちょうど10年。
着実に作品を世に送り出していたが強烈にインパクトを放つのは2019年にテレビドラマにもなった「ルパンの娘」シリーズだろう。
これで一気に全国区の舞台へ躍り出た印象だ。待望の新作『誘拐屋のエチケット』もハードルを最大に押し上げて読み進めたが期待以上の読みごたえで嬉しくなった。
まずは「誘拐屋」という設定も興味を引くが、なんと言ってもキャラクターの魅力が素晴らしい。
クールにしてプロフェッショナルな誘拐屋・田村健一のもとにやって来た新人の根本翼。二人の掛け合いを軸に軽妙に物語が進むのだが、この根本の根っからの人の良さは尋常ではない。
仕事の足を引っ張る新入りの存在に最初は呆れるばかりの田村も次第に根本に寄り添っていく。
誘拐を依頼する者もされる側にも様々な事情が隠されていて一筋縄で行かないのだが、危ういコンビ・田村と根本の関係性を眺めているだけでも相当に楽しめる。
ハードボイルドを貫きたい田村に任務そっちのけで人情話に首を突っ込む根本。
もちろん人間臭さ満点のこの二人にもそれぞれに過去の十字架を背負っており、これがまた絶妙に物語のスパイスとなっているのだ。
上手い!
構成の妙にもひたすら感服。
物語は「女の話は信用しない」「たまには音楽を聴く」「ボランティアなどやらない」など誘拐屋の流儀(エチケット)をタイトルにした七つの章でから成り立ちそれぞれでもイケるのだが、序盤から中盤にかけてはちょっと愉快な誘拐の話と思って油断していると、ラストには本当に周到に用意されていたサプライズに唖然呆然。
感動の嵐……正直言ってここだけの話、思わず涙がこぼれ落ちた。
まさに全部持っていかれた感覚となる。このしてやられた感は痛快爽快すぎて快感だけが残るのだ。
見事に仕組まれたこの誘拐劇。連れ出されるターゲットは読者のハートだったと気づかされる。こんな誘拐屋なら一度は拐われてみたいもの。末長いシリーズ化も切望だ。