第35回
文字数 2,926文字
コロナが令和二年を「ひきこもり元年」にした。
そんな年にだって、クリスマスがやってくる。
Holy Night , Silent Night , 恋人どもよ、Stay Home。
「モミの木だ!」「門松だ!」とインテリアの変動が激しい十二月下旬。
みなさまいかがひきこもりでしょうか?
脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、
困難な時代のサバイブ術!
今年も終わる。
しかし、ひきこもりというのはまず昼夜を見失い、次に曜日を忘れ、最終的に季節を喪失するので本当に終わるのか定かではない。
だが幸い私には、季節が消えた後、純粋な「締め切り」だけが残されたため、あらゆる締め切りの前倒しを命じられることにより、辛うじて「年末」ということだけは理解することができる。
その理屈でいくと、今が「盆前」という可能性もなくはないのだが、「寒い」ので消去法でおそらく今は年末だ。
そう考えると、日本のひきこもりというのは四季がある分、まだ時の流れを見失いにくいのかもしれない。
しかし、四季といっても、春と秋というひっかけ問題もあり、私はよく5月と10月を間違える。
このように、精神と人体に少なからず影響を与える「ひきこもり生活」だが、今年はそんな「ひきこもり」が推奨されるという異例の一年であった。
「外出をするな」「濃厚接触をするな」と、今思えばもう少し下ネタに転用されづらい言い回しはなかったのかという気もするが、今までにない緊迫感に皆外出を控え、街はさながらゴーストタウン、もしくは20時を過ぎた我が村と化した。
しかし、時は過ぎ、コロナ自体は全く終息したとは言えないが、外出自粛に関しては依然ひきこもる人もいれば、お上の政策に従って、旅行や飲食やHELLにGO TOする人とに分かれている気がする。
外出や旅行をする人を責める気はない。
私がセルフ外出自粛を続けているのはそれが性にあっているからであり、逆に「外出推奨政策」だったら、いつまでもひきこもっていられるかと、GO TOした人同様に「外なんかにいられるか!わたしは自室に帰らせてもらう!」と翌朝、湖に逆さに突き刺さって発見される人ムーブをかましていたと思う。
そもそも全員が自粛していたら経済が回らず、コロナではない死因でお亡くなりになる方も出てしまう。
つまり、外出自粛のことは俺に任せろ!お前は旅行や外食で経済を回せ!ただし鳥貴ランナーてめえはダメだ!という役割分担をしているのだ。
もちろん、役割分担に大事なのは「適材適所」である。
コロナをものともせずにGO TOするタイプの人が私と同じ生活をしたら、三日で狂を発するだろうし、逆に私が経済を回すために旅行しろと言われたら、空港の検温で37.5度以上が出るまで粘ってしまうだろう。
それに、旅行が好きな人に旅行をさせれば、テンションが上がって無駄に現地で金を落としてくれるだろう。
逆に部屋にいるのが得意なヤツがひきこもったからといって、今まで特にプラスはなかったが、今は「コロナ感染拡大を防ぐ」という利点がある。
いつも通りにしているだけで社会貢献ができるという、ひきこもりにとっては逆にボーナスステージなのだ。
つまり、何事も「向いている」ことをした方が、成果も出せるし本人のストレスも少ないということだ。
逆に、コロナウィルスの影響で、各々が向いている環境で生きて行く選択肢が広がったように思える。
一時期全国的に外出自粛となったが、その間社会活動も全く出来なかったかというと、ネットを使いリモートワークをしたり、自宅学習をしたりと、家から出ずとも仕事も勉強もやってやれないことはない、ということが判明した。
昨今、「結婚しなくても生きていける世の中だけど、あなたとだからあえて結婚する」といった若干上からのキャッチが「いいね」とされているように、家から出なくても、仕事も勉強もできるが、あえて外でやりたいという人はこれまで通りやれば良い。
逆に家から出ずにやった方が向いている、むしろ外でやると病むという人は家でやるという風に、選択できる世の中になれば良いと思う。
家でも学習はできるが、勉強は学校へ行ってみんなでやるものなのだから、それ以外は許さないという風潮では、健全な青少年を育成どころか、未来の社会問題を生み出すことになってしまう。
今年はコロナで大変なことだらけだったので、せめて生き方が多様化するきっかけになってくれればと思う。
ところで、多様化する生き方の一つとして、最近「アドレスホッパー」というライフスタイルを知った。
「アドレスホッパー」とは「家を持たない」という、いわばひきこもりとは対極の生き方である。
国内外を転々としながら、ホテルやホステルなどで暮らし、その場でネットを使って仕事をするそうだ。
逆にお金がかかりそうだが、旅費と家賃光熱費はそこまで変わらず、さらに各地を転々とするゆえに無駄な物は持たなくなるという。
その理屈でいえばひきこもりだって、「外出をしないことにより「移動時間」というロスと、外出によって起こる無駄遣いを極力そぎ落としたコンパクトな生活」として、ホッパー的なカッコいい名前がついても良いはずなのに、「それひきこもりでしょw」というクソリプしかつかないのは何故なのか。
しかしアドレスホッパーも、悪く言えばホームレスである。
仕事の有無の問題かというと、ホームをレスされている方だって働いている人は多い。
結局「雰囲気」の違いな気がする。
実際アドレスホッパーとして紹介されていたのは、小ぎれいな、いかにもIT系の若い男性だった。
これが「60代」というだけで、話が大きく変わって来てしまう気がする。
結局住所不定だろうが無職だろうが、「オシャレ」なら「そういうライフスタイル」としてゴリ押せるということなのではないか。
違法薬物ですら、エリカ様が「これが私のライフスタイル」と言っていたとかいないとかで説得力がでてしまうのだから、「雰囲気」というのは大事である。
私は、今この原稿を、部屋のゴミさんたちに「ちょっとスペース借りていいですか?」と断って書いている。つまりどう見てもゴミの方が部屋主だ。
このビジュアルで「ライフスタイル」と言っても、やはり社会問題にしか見えないのだ。
来年はもう少し「見栄え」を良くして、ひきこもりのライフスタイル化を目指していきたい。
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中