『御手洗潔の挨拶』より「ギリシャの犬」/島田荘司
文字数 1,951文字
同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで紹介してくださいます!
大好評連載の第53回目は、島田荘司さんの『御手洗潔の挨拶』より「ギリシャの犬」です!
幼い頃から本を読むのが大好きでした。親に買ってもらった文学全集にはジャンル問わず様々な作品が収録されており、読み進めるうち「自分は謎を解いたりするお話が特に好きなのだな」と気が付きます。
小学生のとき読みふけったのは江戸川乱歩の少年探偵団シリーズ。そしてジュニア向け翻訳のシャーロック・ホームズシリーズへと流れていきます。思い返せばホームズとの出会いが「名探偵」への憧れの始まりでした。
名探偵を追いかけて横溝正史の金田一耕助シリーズに辿り着きます。映画が先で、のちに小説を。杉本一文氏の装画が美しくも恐ろしく、私の心にいまだ鮮やかなトラウマを残してくれています。
そんなふうに戦前の作家ばかり読んでいた私がリアルタイムで手に取ることが出来たのが、島田荘司の御手洗潔シリーズでした。
難解かつ魅力的な謎、変人なれど天才名探偵の御手洗潔、一般人代表のような相棒の石岡和己。ホームズとワトスンでバディものにハマった私はすぐ夢中になり、シリーズを次から次へと読みました。
というわけで、今回ご紹介するのは御手洗潔シリーズの短編集『御手洗潔の挨拶』(講談社文庫)に収録されている「ギリシャの犬」です。
メインタイトルに「挨拶」と入っているだけに、全4編を読むと御手洗の「人となり」がよくわかるのが嬉しく。短編とは思えないほど各話読み応えがあり、御手洗がスラスラと謎解きをするシーンのカタルシスは最高です。
唯一の問題は「ギリシャの犬」に、このブックガイドの最大テーマ(犬は死なない)に反しているところがある点。
でもそれにより御手洗は本気を出しますし、読後感は爽やか。何より御手洗があまりに犬好きすぎるのが愛おしく、皆さまにも読んで欲しくなりました。
とある大事件を解決したお礼に富豪がモナコに招待してくれ、つかの間の休日を楽しむ御手洗と石岡。そこで彼らは立派なシェパードを連れた青葉と名乗る男に声をかけられます。
名探偵御手洗のファンであるという青葉は海運業での成功者。日本に住む妹が御手洗に相談をしたがっていると話すのですが、
「「見事な犬ですね、名前は何というんです?」
御手洗はろくに聞いていず、犬の前にしゃがみ込んで、頭を撫でていた。
「グリースです。私はギリシャに住んでおりますものでね。」」
人間には見向きもせず、犬に夢中な御手洗。
舞台は日本に移り、青葉の妹さんが本当に相談にやってきました。「自宅隣のタコ焼き屋さんが、箱型の小さな店を跡形もなく盗まれてしまったから捜して欲しい」という珍妙な依頼。
最初全く興味を示さなかった御手洗でしたが、この事件には犬が大きく関わっていたことがわかった途端、急にスイッチが入るのです。
お店が盗まれた後には謎の暗号が書いてある紙切れが落ちていました。事件は珍妙どころか意外な大事件へと展開していきます。
タイトルの「ギリシャの犬」はグリースのことなのでしょうか。それとも?
本格ミステリの醍醐味が詰まった物語を読んで、梅雨の憂鬱を吹き飛ばしてくださいね。
漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
公式X(旧ツイッター)→https://twitter.com/kunikikuni
公式インスタグラム→https://www.instagram.com/kunikikuni/
★国樹さんちの愛犬がLINEスタンプになりました!
[MIX犬のきんとき&かんな]
https://line.me/S/sticker/23611465/?lang=ja&utm_source=gnsh_stickerDetail
柑奈(かんな)
茶色のMIX犬/10歳/自由に生きるおてんば姫