『異世界の名探偵 1 首なし姫殺人事件』/坂野公一(welle design)
文字数 2,160文字
そう-てい【装丁・装釘・装幀】
書物を綴じて表紙などをつけること。
また、製本の仕上装飾すなわち表紙・見返し・扉・カバーなどの体裁から製本材料の選択までを含めて、書物の形式面の調和美をつくり上げる技術。
また、その意匠。装本。
『広辞苑 第七版』(岩波書店)より
プロのデザイナーが、「本」のデザインについて語るエッセイ企画『装幀のあとがき』。
今回は『異世界の名探偵』シリーズのデザインを担当していただいた坂野公一さん(welle design)です!
そもそも「レジェンドノベルス」のフォーマットデザインは、僕が担当させていただきました。ロゴ、背表紙、本文など、本のデザインの基本形を作るお仕事です。書店で棚差しになった時の風景を重視したい、レーベルとしての存在感を出したい、そういう王道的なオーダーでした。
その後、レジェンドノベルス編集部の渡辺さんから「今度はカバーデザインをお願いしたい」とご連絡があり、それ以降数点カバーデザインを担当させていただいています。
本レーベルは、基本的にイラストレーション主体の装幀で、イラストレーターの人選とディレクションは編集者の裁量で行われます。デザイナーは届いたイラストを最高の形で見せ、最高の形で装幀にまとめ上げる役割を担うことに。この方法では、ともするとデザイナーは単なる「文字置き作業者」になりかねないのですが、一方で絵に対して客観性を保つことが出来るため、ひたすらに最適なレイアウトを追求しやすいという利点もあります。
本作の装画ご担当は六七質さんとのこと。六七質さんからは「製作に入る前にデザインの方向性だけ伺っておきたい、文字色や配置をどうするかを元に構図を考えたい」というコメントをお預かりしました。よって、
・白抜きのタイトルが効くように、絵の濃度は全体的に暗めで。
・情景主体、人物は比較的抑え目に。
といったデザイン面に関連する要望を、先んじて渡辺さん経由でお伝えいただくことに。
さらに、今回はまず文字だけのレイアウトを数種作り、その中から絵をより良く見せられるレイアウトを先に決定する方法を採用しました。これは「先割りレイアウト」などと言われます。
用意した文字のレイアウトは8点。A系列(左列)は文字の大きさを控えめにして、間を取るレイアウト(絵が主体)。B系列(右列)は文字を極力大きく見せるレイアウト(文字主体)。渡辺さんは「A1かA2」をセレクト。前述した通り、レジェンドノベスルは絵を主体として見せることを重視するようで、タイトルの専有面積が大きいB系列には一瞥もくれませんでした(笑)。
この二案を比べると、より絵を見せやすいのは「A1」ですが、これはタイトルが紙面両サイドに分かれる「タイトルを割る」という行為で、一般的には忌避されるスタイルです。でもレジェンドノベルスではOKの様子。ということで、「A1」のレイアウトが採用となりました。
1970年、兵庫県生まれ。神戸芸術工科大学卒業。SONY株式会社、杉浦康平プラスアイズ勤務を経て、2003年に独立し、welle designを設立。ミステリーなど文芸書を中心に多くの実績を誇る。最近の仕事に『今昔百鬼拾遺 月』(京極夏彦)などがある。日本推理作家協会会員。
【大事なお知らせ!】
『異世界の名探偵』コミカライズが連載開始! 作画を担当するのは蒼一郎氏。2020年8月より「コミック ヴァルキリーWeb版」にて連載中です。