第58回

文字数 2,596文字

夏が来たといってもいいのではないか。


ひきこもり同士諸君は、梅雨でカビないよう除湿を使いこなそう。

文明の力で四季折々の快適な籠城ライフ!


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!

ひきこもりを悪化させるのは社会への「恐怖」だ、と熱く語ってきたが、自分が思いつくことなど大体先人が4000年前に思いついていることなのだ。

たまに天才かと思うような大爆笑ギャグを思いついても、ググれば大体同じことを考えついている奴が見つかる。

もし見つからない場合は、「口に出すことも憚られるほどスベっている」という、ギャグの発見ではなく禁忌に触れてしまった可能性があるので「口に出してはいけない言葉」として闇に葬った方がいい。


私が言う「社会への恐怖」も、そのまんま「社会不安障がい」としてすでに認知されている。



社会不安障がいとは、対人恐怖や視線恐怖、赤面恐怖など、とにかく人前で何かするのが苦痛で怖くて仕方がない、という症状である。


原因は、遺伝、もしくは経験、または性格だそうだ。

つまり「犯人は10代から30代、もしくは40代から50代かそれ以上の男もしくは女」ということであり、非常に明確だ。


私も自分を対人恐怖症だと思っていたが、別の仕事で世話になっているクリニックの先生によると「こうやって私と話せている時点で対人恐怖とは片腹痛い」らしいので、この程度で対人恐怖などと自称して申し訳なかったと思っている。

「一週間後にここに来てください、本物の対人恐怖を見せてやりますよ」と言われなくて本当に良かった。


しかし、症状の軽重に関わらず本人がそれに苦痛を感じ生活に支障が出ているなら、そこからうつやひきこもりになってしまう可能性は十分にある。

逆に「人と目が合うと泡吹いて倒れるけど私は元気です」であり、生活に全く支障がないというなら別にそのままでいいのだ。


大事なのは客観的深刻度ではなく、僕の中でそれがどれだけヤバい奴か、である。


社会不安障がいへの対処法は、私は素人なので詳しくは鎧武顔で「病院へ行こう」としか言えないが、ひきこもりお得意のインターネット知識によると「クスリ」があるらしい。


もう「クスリ」と聞いただけで若干元気になったので、やはり、薬物、薬物は全てを解決する、である。

しかし、当然定期的な通院と服薬が必要であり、それが続けられないと逆に悪化してしまうケースもある。

それに、私のように「まずクスリ、話はそれからだ」ではなく、それは最終手段にしたいという人もいるだろう。


虫歯に「自然治癒」はなく、悪化一択なように、何かを治したい時は、病院に行くのが一番であり、コストも何だかんだで一番安く済んだりする。

虫歯放置で2年の通院と、100万以上の治療費、そして今月また50万の俺が言うのだから間違いない。


しかしこの世には「病院が開いている時間帯が、病院に行く金を稼ぐために働いている時間帯とほぼ一致」という巨大な矛盾がある。

よって「何故こんなになるまで来なかったんだ」という説教は、せめて土曜の昼まで開いている医院以外は言わないでほしい。


もちろん、病(ビョウ)が働けなくなるまで悪化したら本末転倒なので、病院には会社を休んででも行くべきなのだが、それがなかなか出来ないのが実情である。

よって国民が病(ビョウ)まないためには、日本社会の病(ヤマイ)巣から治療する必要がある。


餅は餅屋(しかし餅屋というものを見たことがない)と言うように、病気は病院であることは間違いないが、口内炎の赤ちゃんをチョコラBBのオーバードーズで殺したりと、初期の段階で病(ビョウ)を食い止めたり、そもそも罹らないように「予防」することは個人の力で可能である。


社会への不安を持たないようにしたり、軽度で抑えるために出来ることは個人でもあるのだ。



まず、メンのヘルというのは、心の問題もあるが「脳」も大きく関係しており、多くの症状の原因に脳みその「セロトニン」という物質を出す部分がイカれている可能性があるらしい。


このセロトニンという物質は「幸せホルモン」というヤバい呼び名がついているモノの一つであり、これの分泌が少ないと、ブルーになりやすいと言われている。


このセロトニンを出す排水溝の詰まりを治す方法だが、まず「クスリ」があるそうだ。

もう「クスリ」と聞いた時点でセロトニンが出てきたので、やはり薬物は全てを解決する。


だが、通院や服薬をしなくてももっと簡単にセロトニンを出す方法があるそうだ。


それは「太陽の光」を浴びることだ。朝日ならなお良いらしい。


何故ひきこもりが、ひきこもり続けることで症状が悪化し、ますます外に出られなくなるかの答えの一つがここにあるような気がしてならない。



まず「部屋に太陽がある」という場合をのぞいてひきこもりは日光を浴びないし、朝日が出る時間には「起きてない」ケースも多い。


ひきこもりだって、ベランダに出て日光を浴びるぐらいできるだろうと思うかもしれないが、何せひきこもりは、社会や他人に大きな不安を抱いているため、自分がベランダに出て虚を見つめていたら、近隣に不審がられるような気がしてならないのである。


最初はただの考えすぎかもしれないが、ひきこもり続けることによって本物の「近所に不安を与える存在」になってしまうのだ。


ひきこもりにとっては日光を浴びることにすら様々な不安が付きまとっているのだ。

安易に「ずっと家の中に閉じこもってるからだよ!とりあえずカーテン開けてお日様の光入れてみよ!」などと旧ベッキーのようなことを言ってはいけない。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

★次回更新は6月11日(金)です。
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