第21回 SATーlight 警視庁特殊班/矢月秀作
文字数 2,408文字
SITやSAT(警視庁特殊部隊)よりも小回りが利く「SATーlight(警視庁特殊班)」の面々の活躍を描く警察アクション・ミステリー。
地下アイドルの闇に迫るSATメンバーたち! アイリの危機に平間は…⁉
毎週水曜日17時に更新しますので、お楽しみに!
「あいつらって?」
「話せない。話したら、タクさんにまで迷惑かけちゃう」
夜目が利いてきて、アイリの顔がほんのりと見えてきた。アイリは眉尻を下げ、涙を流していた。
「僕なら大丈夫。今は、自分のことだけを心配して」
平間は闇の中で微笑みかけ、アイリの上体を起こした。ジャンパーを脱ぎ、着させる。
と、複数の足音が聞こえてきた。
「おい、こんなところにバイクがあるぞ」
男の声がした。
アイリの体が強ばった。
平間はアイリの肩を強く握った。アイリが平間のシャツの裾を握り返す。
「君を追ってきたのは、この声の男たちか?」
平間が訊くと、アイリはうなずき、体を寄せた。
「わかった。君はここで待っていて」
「どうする気?」
「追い払ってくる」
「ダメ! タクさんが殺されちゃう!」
アイリは声をひきつらせた。
平間はアイリを放して、両肩を握った。
「大丈夫。こう見えても、僕は強いから」
そう言って微笑む。
「ここにいて。何があっても、出てきちゃいけない。もし、僕が彼らにやられても、ほとぼりが冷めるまでじっとしてるんだ。そして、隙を見て山を下りること。スマホ貸して」
平間はアイリからスマホを受け取り、真田の電話番号を入れた。
「これは僕の叔父さんの電話番号だ。僕がやられたらすぐに連絡して。必ず、助けてくれるから」
スマホを差し出す。
アイリはその手を両手で握った。
「行かないで……」
「心配しないで。あいつら蹴散らして、すぐ戻ってくるから」
平間はそっと手を押し離した。
自分のスマホをズボンの後ろポケットに入れ、アイリから離れる。
平間は背を低くして、音を立てないよう右手に移動した。道路沿いに藪の中を進み、斜面を下りていく。
途中、路上の男たちを確認した。ラフな格好をした若い男が四人いる。バイクをじろじろ見たり、斜面上方の藪に目を凝らしたりしている。懐中電灯を持っている者が藪の中を照らしている。
平間は道路の下側の斜面に降りた。そして、ゆっくりと足音を立て、上がっていく。
音に気づいた男は、懐中電灯で藪の中を照らした。LEDライトの明かりはまぶしく、平間は目を細めた。
「おまえ、誰だ!」
男が怒鳴った。
平間は藪から上がってきた。
「まぶしいなあ。なんだよ」
手のひらで明かりを防ぐ。
「何やってんだ、こんなところで」
男はライトを向けたまま、近づいてきた。他の三人も平間に寄ってくる。
「道に迷って走ってたら、バッグを落としてしまってな。探していたところだ」
「バッグだと? 何も持ってねえじゃねえか」
別の男が平間を見据えた。
「暗くて、よくわかんなかった。おい、ちょっとその懐中電灯、貸してくれよ」
平間が手を伸ばす。懐中電灯を持った男は手を引っ込めた。
「いいじゃねえか、ちょっとぐらい」
「こっちは取り込み中だ。明日の朝になったらまた探せ」
男が平間から離れる。他の男たちも平間から離れ、上の方へ歩き出した。
その時、ガサッと音がした。男たちが立ち止まり、斜面上の藪の中に目を向ける。
まずいな……。
平間は懐中電灯を持った男に駆け寄り、手首を握った。
「頼むよ。バッグの中に書類があってな。朝一で届けなきゃならねえんだ。遅れたら、ペナルティ払わされるんだよ」
「そんなの知るか!」
男が平間の手を振り払おうと腕を振った。
平間は男の手首を強く握って折り曲げ、明かりを男の顔に向けた。
男が一瞬、目を細めた。
その瞬間、平間は男に左フックを浴びせた。男の顎に拳がめり込む。男は意識が飛び、そのまま横倒しになった。
平間は男の手から懐中電灯を奪った。服にヘッドを押し付ける。明かりがなくなり、路上は暗くなる。
平間は近くの男に擦り寄った。男が平間に目を向けたタイミングを狙って、明かりを顔に照射する。
男が目をつむった。平間は股間を蹴り上げた。男が両膝から落ちる。髪の毛をつかんで、膝蹴りを食らわせる。
男は口と鼻から血をまき散らし、仰向けに倒れた。
別の男が後ろから平間の襟首をつかんだ。
平間は左手で男の手首をつかんだ。真後ろに下がり、男の腕の下を潜る。男の腕が背中側にねじれた。
懐中電灯を持っている右手で肘を押さえ、体重を乗せる。男が片膝を落とした。上体が前のめりになる。
平間は右足を振り上げた。足の甲が男の顔面にめり込んだ。手を離すと、男は後方へ吹っ飛び、路肩から山の斜面を転がり落ちた。
残った一人が後方から走ってきた。
「タクさん!」
アイリの声で振り向く。明かりが一瞬、男の手元を照らす。刃物がギラッと光った。
男は腰を落とし、平間の腹に突っ込んだ。平間と男が重なる。懐中電灯が足元に落ちて転がった。
「タクさん!」
アイリが駆け下りてきた。平間に駆け寄ろうとする。
「来るな!」
平間は怒鳴った。アイリが止まる。
矢月 秀作(やづき・しゅうさく)
1964年、兵庫県生まれ。文芸誌の編集を経て、1994年に『冗舌な死者』で作家デビュー。ハードアクションを中心にさまざまな作品を手掛ける。シリーズ作品でも知られ「もぐら」シリーズ、「D1」シリーズ、「リンクス」シリーズなどを発表しいてる。2014年には『ACT 警視庁特別潜入捜査班』を刊行。本作へと続く作品として話題となった。その他の著書に『カミカゼ ―警視庁公安0課―』『スティングス 特例捜査班』『光芒』『フィードバック』『刑事学校』『ESP』などがある。