第38回/SATーlight 警視庁特殊班/矢月秀作
文字数 2,574文字
SITやSAT(警視庁特殊部隊)よりも小回りが利く「SATーlight(警視庁特殊班)」の面々の活躍を描く警察アクション・ミステリー。
地下アイドルの闇に迫るSATメンバーたちの活躍を描きます!
毎週水曜日17時に更新しますので、お楽しみに!
《警視庁特殊班=SAT-lightメンバー》
真田一徹 40歳で班のチーフ。元SATの隊員で、事故で部下を死なせてSATを辞めたところを警視庁副総監にスカウトされた。
浅倉圭吾 28歳の巡査部長。常に冷静で、判断も的確で速い。元機動捜査隊所属(以下2名も)
八木沢芽衣 25歳の巡査部長。格闘技に心得があり、巨漢にも怯まない。
平間秋介 27歳の巡査。鍛え上げられた肉体で、凶悪犯に立ち向かう。
「タクさん、なんでここに……」
キノピが訊く。
「その格好。タクさん、やっぱり警察の人だったんだな」
ライチが言う。
「やっぱりって?」
平間はライチを見やった。
「タクさん、僕がいろんな会場で見てきたオタクとはちょっと違ってた。食い込むのも早くて社交的だったし、立ち振る舞いというのか、そういうのが普通の人だった。いい意味で。サポ案件に興味ありそうだったから、ひょっとして潜入かなとか思って。映画とかの見過ぎだけど」
ライチが笑う。
「タクさん、警察官って本当?」
キノピが訊く。
「ああ。平間と言うんだ。騙してて、悪かった」
ライチとキノピに頭を下げる。
「仕事なんだから、仕方ないよ」
キノピが言った。
「タクさん……平間さんのところに、アイリちゃんから連絡が?」
ライチが訊いた。
平間はうなずいた。
「助けて、保護したよ」
「よかった。他のメンバーは?」
「この別荘を使っていた男の仲間が、東京に送り届けているらしい」
「どういうことですか?」
「わからないが、何もしていないように装うつもりだったのかもしれないね。彼女たちを乗せた車両は手配してあるから、まもなく見つかると思う。他の連中は俺たちが捕まえたんで、彼女たちを追うことはない」
平間が言うと、ライチはホッとしたように息をついた。とたん、キノピと同じように膝から崩れそうになる。
平間はライチの脇に手を回した。
「大丈夫か?」
「ごめんなさい。みんなが無事だと聞いて、震えが……」
ライチの笑みが引きつった。
キノピがライチを支える。
「ライチさんも怖かったんだ」
「当たり前だよ。あの人に銃を向けられた時には、生まれてから今までの人生が一気に頭によぎった」
ライチは真田を見た。
その言葉に、キノピと平間が笑う。
真田は銃をホルダーにしまい、近づいた。
「君たちの勇気は買うが、無茶が過ぎる。俺が本当の敵だったら、今頃二人とも命を落としている。勇気と無謀は違う。こういう時は迷わず警察を頼ること。それが勇気だ。わかったな」
真田はキノピとライチを交互に見やった。
「すみませんでした」
二人は素直に頭を下げた。
「平間、二人を所轄署に連れて行って、事情を聴け。浜岡は俺が捕まえてくる」
真田が先に玄関へ向かう。
「ここはどうします?」
「浜岡を捕まえた後、上村さんに連絡を入れて掃除してもらう」
「了解」
平間が言う。
真田はうなずいて、玄関ドアのハンドルに手をかけた。
その時、ドンと太く腹に響く音がした。四人は思わず腰を落とした。
「なんだ?」
平間がキノピとライチを抱えて、周りを見る。
真田は銃を抜いて、玄関ドアを押し開けた。飛び出して片膝をつき、周囲に銃口を向ける。
「平間! 二人を連れてこい!」
「頭を低くして」
平間は言い、自身も銃を抜いて、二人の壁になるように少し前を急いで歩いた。その後ろからキノピとライチがついてくる。
「屈んで!」
真田が言う。真田の脇でキノピとライチは頭を抱えてしゃがみこんだ、
真田が指を振る。平間は自分たちが乗ってきた車に走った。運転席に乗り込み、エンジンをかける。急発進し、土を巻き上げながら玄関口に横づけにした。
「乗って!」
平間が声を張る。
真田が後部座席のドアを開けた。キノピとライチが後部シートに飛び込んだ。
真田はドアを閉め、助手席に回った。
「出せ!」
真田の命令で、平間はアクセルを踏んでハンドルを切り、坂道を下った。キノピとライチが後部座席で転がる。
平間はかまわず曲がりくねった山道に出て、山を下り始めた。
その途中、炎が見えた。
平間はその近くまで乗り付けた。車が燃えていた。噴き上がる炎が周りの木々も焦がしている。路肩に車を寄せ、停める。
と、キノピがつぶやいた。
「僕らが乗ってきた車だ……」
「浜岡の車か?」
真田が後ろを見やる。
ライチとキノピがうなずいた。
見ていると、再び、車から爆発音と炎が上がった。車内にいた者たちが首をすくめる。
そのすぐあと、さらに大きな爆発音がした。鳴動する。車の天井やボンネットに瓦礫が降ってきた。車内に金属を叩く音が響く。
平間はアクセルを踏んだ。道を塞ぐ炎を突っ切り、巧みにハンドル捌きでうねる道を下っていく。
ライチはシートの背もたれにしがみつき、キノピはシートの下に転がっていた。
安全なところまで来て、車を停めた。真田と平間が車外に出て、山を見上げた。
「ボス、あそこは……」
平間が目を見開いた。
真田も平間が見つめているところを睨んだ。
別荘があった場所から炎が上がり、赤々と夜空を染めていた。
真田はスマートフォンを取った。上村に連絡を入れる。
「……もしもし、真田です。定岡の別荘に捜査員を回してください。爆破されました」
真田は鋭い目つきで、炎を見据えた。
矢月 秀作(やづき・しゅうさく)
1964年、兵庫県生まれ。文芸誌の編集を経て、1994年に『冗舌な死者』で作家デビュー。ハードアクションを中心にさまざまな作品を手掛ける。シリーズ作品でも知られ「もぐら」シリーズ、「D1」シリーズ、「リンクス」シリーズなどを発表しいてる。2014年には『ACT 警視庁特別潜入捜査班』を刊行。本作へと続く作品として話題となった。その他の著書に『カミカゼ ―警視庁公安0課―』『スティングス 特例捜査班』『光芒』『フィードバック』『刑事学校』『ESP』などがある。