『犬の生活』/小山 清
文字数 1,866文字

同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで、素敵なイラストつきで紹介してくださいます。
第19回目の今回は、小山清さんの『犬の生活』です!
私は悲しいときは泣きません。泣けません、が正しいかも。ではどんなときに泣くのか。ああ幸せだなと感じたとき、自分でも知らぬ間に目頭が熱くなっていることがあります。
小山清さん作の短編集『落穂拾い・犬の生活』(ちくま文庫)に収録されている表題作「犬の生活」は、まさに目頭が熱くなる佳作でした。
語り部は小説家なので、作者ご本人でしょう。日常のよしなしごとを静かな筆致で綴っています。「事実のみの脚色なし」とは思いませんが、私小説ととらえて読みました。
ある日の公園で捨て犬と出会った作者。飼おうと決めますが、こんな葛藤もします。
「自分は軽はずみなことをしているのではないかという気もした。けれどもまた考えてみるに、私の過去は軽はずみの連続のようなもので、もはやそのことで私は自分自身を深く咎めだてする気にもなれないのである。」
思わず笑ってしまいました。なんとも愛すべき人物だなと。
ある家の離れを借りて暮らしているため、大家さんであるお婆さんに犬と暮らしていいか、許可をもらいに行きます。そのやり取りがとても優しくて、いいのです。大家さんが大好きになりました。
飼うことを許された犬は牝犬でした。メリーと名付けられ、1人と1匹の平穏な暮らしが始まります。
「メリーは、お婆さんの云うように、たいした犬ではない。ありふれた雑種である。」
と言いながらも、メリーのことを語る言葉のはしばしに愛が溢れています。まるで血の繋がった家族のごとく大切に思っていることがひしひしと伝わってくるのでした。
ところでメリーは拾ったときから妊娠していたため、病院にも連れて行きます。メリーが診察されているときの描写は秀逸の一言でした。メリーの様子を見守る目線のあたたかいこと。診察と予防注射までの全部が終わったことを察し、尾を激しく振るメリーを見て、
「私は可憐な気がして、メリーの頸を抱きその額をなでた。」
その行動の気持ちがわかり、胸が締め付けられました。
私事ですが、我が家の愛犬が昨年末に両足を脱臼し、手術をしたのです。老齢で足が弱くなっていたゆえの負傷でした。現在は抜糸も済みリハビリ中。命に別状があるわけではないのに、物言わぬ犬のことですから、心配でたまりませんでした。そんな気持ちとリンクして、私も「メリー、よく頑張ったね」と。
ちょっとしたトラブルに見舞われつつも、季節はゆるやかに巡ります。犬と居心地のいい公園を散歩して、あれこれ想像の翼を広げ、思索に耽る。夢のように幸せな毎日ではないでしょうか。
「メリーの相手をしているのが、いちばんいいですよ。ほかのお客様とですと、ついひとさまのかげ口をきくようになりましてね。」
大家のお婆さんの言葉です。人間関係における妬み嫉みなどいっさいない生活の美しさよ。
このお話のタイトルである「犬の生活」はチャップリンの映画由来らしく。連れ合いのDVDコレクションの中にあるとのことなので、今度観てみようと思います。

漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
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