特別篇:『今昔百鬼拾遺 月』/坂野公一(welle design)×編集K 対談

文字数 2,171文字

そう-てい【装丁・装釘・装幀】


書物を綴じて表紙などをつけること。

また、製本の仕上装飾すなわち表紙・見返し・扉・カバーなどの体裁から製本材料の選択までを含めて、書物の形式面の調和美をつくり上げる技術。

また、その意匠。装本。


『広辞苑 第七版』(岩波書店)より

『装幀のあとがき』特別篇

デザイナー 坂野公一× 編集者 K 対談

プロのデザイナーが、「本」のデザインについて語るエッセイ企画『装幀のあとがき』。

今回は『今昔百鬼拾遺 月』ノベルス版・文庫版の連続刊行を記念して、双方の装幀を担当していただいた坂野公一さんと、編集担当・Kが2冊の装幀ができるまでの裏話を語ります!

■いつもの、煉瓦本です。


  『文庫版今昔百鬼拾遺 月』ですが、「鬼」、「河童」、「天狗」の3作が収録されています。それぞれが普通の小説の1冊分の分量があります(笑)。


坂野 3作合わせて、いつもの煉瓦本の厚さですね。ノベルスも文庫も4cmくらいの背幅です。


  文庫は1104ページ、ノベルスは752ページあります!


坂野 おお~。(笑)そうですか。4桁はすごいですね。やはり文庫は一段組みですしね(ノベルス版は2段組み)。

  ページまたぎと読みあじの調整などをしていただくと、そうなりますね。文庫版はノベルス版の校了データを使っているのですが、文庫の組みに流し込んでみると、かなり手をいれていただくことになりました。


坂野 よく京極さんも言っていますよね、内容は同じでも段組みの違い、改行や改丁の違いで「読み味」が変わると。判型が変わっても同じ読み味に近づけるために、手をいれられるわけですよね。


■異例づくしの刊行


K  通常このシリーズは3話入った状態でノベルスが出て、そのまま文庫になるという流れなのですが、今回は「鬼」「河童」「天狗」が講談社タイガ、角川文庫、新潮文庫で刊行されてから1冊にまとめるというイレギュラーな進行しかもでした。ノベルス版と文庫版がほぼ同時進行というのも珍しいですよね。


坂野 そうそう。でもデザインする側としては、同じ作品をここまでいろんなフォーマットとデザインで作れる機会はそんなにないので、とても貴重な体験でした。

  京極さんの作品は、今までも何度か同時刊行をしてきましたね。


坂野 『ルー=ガルー2』では単行本、ノベルス版、文庫版、電子書籍の4形態同時発売とかやりましたね。

  あのときノベルス版はリバーシブルカバーでした。


坂野 …リバーシブルのカバーって、みんなちゃんと楽しんでくださっているのかな。「よーし、オレは裏面で読むぞ!」みたいな。結構、表と裏で雰囲気が変わりますよね。


  結局、2冊置いておかないと落ち着かないですよね(涙)。

■造形「三つ巴」からの絵


  カバーの進行は文庫のほうがやや早かったですね。


坂野 文庫のカバーの張り子はいつもの荒井良さん作。とても面白い造形でしたね。鬼、河童、天狗が三体三つ巴でそれぞれの手と足をつないでいて、その中心が月に見える。それを撮影した写真を使用してデザインするのですが……レリーフみたいな感じなので、写真をどういう角度で撮ればいいかなど、なかなか悩みました。

  撮影現場で試行錯誤した挙句、全体像が見えるより少し角度をつけたほうがいいということになり、鬼目線で撮りました。


坂野 鬼が天狗を見ている感じですね。

■ノベルス版と文庫版を比べて見る楽しさ


K  この流れでノベルス版のほうも三つ巴、いいかも、ということになりました。


坂野 そうですね。「三つ巴でお願いしまーす」と装画の石黒亜矢子さんにお願いをして。長い付き合いなので、その辺はツーカーといいますか。そうして出来上がったのが、巻き物状の画。いい感じでかわいらしさと重厚感がある。

K  同じ三つ巴という題材でも、作家の個性がはっきり出て面白いですね。


坂野 タイトルの文字と「三つ巴」は同じなのに、違う。それぞれの良さがよく出ています。造形と絵という二つの違いを楽しんでいただく、というのが今回のノベルス版と文庫版の装幀コンセプトですね。

■「百鬼夜行」シリーズ入門編としておすすめ!


 『今昔百鬼拾遺 月』は昭和29年が舞台で、一見事件もかなりハードな印象ですが、扱われているテーマはとっても現代的です。登場人物たちの迷いや悩みに今を生きる私たちも共感するところが多いと思います。京極堂の「憑き物落とし」とはひと味違う爽快感を味わえます。京極作品のエントリーモデルとしておすすめです。


坂野 入門編としておすすめ。いやーしかし、京極作品は強い。


K  ご本人のインパクトも負けていませんよ(笑)。

welle design 坂野公一

1970年、兵庫県生まれ。神戸芸術工科大学卒業。SONY株式会社、杉浦康平プラスアイズ勤務を経て、2003年に独立し、welle designを設立。ミステリーなど文芸書を中心に多くの実績を誇る。最近の仕事に『今昔百鬼拾遺 月』(京極夏彦)などがある。日本推理作家協会会員。

welle design HP

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