『不可逆少年』刊行記念! 名物書店員4名によるオンライン座談会

文字数 4,409文字

〔出席者一覧〕


司会(担当編集)

礒部ゆきえさん(旭屋書店池袋店)

川俣めぐみさん(紀伊國屋書店横浜店)

宇田川拓也さん(ときわ書房本店)

内田剛さん(ブックジャーナリスト)

???(ゲスト)

――みなさまのおかげで昨年刊行した『法廷遊戯』は年末のミステリランキングで、大変ありがたいランキングをいただきました。ありがとうございました! デビュー2作目となる『不可逆少年』刊行にあたり、『法廷遊戯』刊行前座談会にお越しいただいた四人の方々にお集まりいただきました。ぜひ色々お話をお聞かせいただければ幸いです。


宇田川拓也(以降、宇) 「新人は2作目が勝負」といいますが、『不可逆少年』は見事、その勝負に勝ったのではないでしょうか。リーガル×ミステリで、またもこれほどの作品を書いてくださるとは! つかみのインパクトからすごかったです。


内田剛(以降、内) これ以上のつかみはない、というくらいにインパクトがある冒頭でしたよね。書店で配っている試し読みも、この冒頭で終わっていたから、続きがすごく気になって。


 第一章で、主人公の真昼が担当する少年・影戸圭が抱いている誤解をさらりと解き明かし、彼に告げる真昼の台詞に、早速「うまい!」と唸らされました。「おもしろい」という感想では伝え切れない、この素晴らしさ。「やり直せるから、少年なんだよ」という言葉を、いかに少年たちに届けるのか、最後にこれだけひどい事件を起こした犯人がどうなるのかが気になって、一気に読んでしまいました。


川俣めぐみ(以降、川) 私も「やり直せるから、少年なんだよ」という言葉が、やっぱり一番印象に残りました。著者の五十嵐さんが、ここまで辿り着きたかったんだなということが伝わってくるラストでしたよね。なんといっても、衝撃的なプロローグにぐっと掴まれて、一気読みでしたね! えぐみもあるけど、そのぶん、先が気になって仕方がなかったです。


 五十嵐さんは、デビュー作の『法廷遊戯』でハードルが頂点まで高くなっていたはずですが、そのハードルを越えたなと思わされました。


礒部ゆきえ(以降、礒) 私も、読み始めたら、やめられなくなってしまって……。家庭裁判所調査官の青年と女子高校生、二人の視点が、とてもうまく描き分けられているなと思いました。「やり直せるから、少年なんだよ」という言葉がずっと頭から離れず、思い出し続けながら読めたのがよかったです。この小説には色んな問題が描かれていて、それを考えながら読むんですけど、疲れを感じる前に読み終えていました。


 冒頭の、「青い炎が、私の右腕を炙っていた」という一文に、まずつかまれましたよね! その後も、オレンジ色の光、白い狐の面、赤い鮮血など、鮮やかな色彩が次々と出てきて……花火のシーンで気持ちがはじけました。


 僕も、花火のシーンは大好きでした!


礒・川 わかります!


――ありがとうございます。印象に残っているキャラクターはいらっしゃいますか?


 やはり主人公の瀬良真昼でしょうか。後半、彼の過去に迫るエピソードもよかったです。あそこだけで短編小説になり得るくらいの趣きがあって、いい若者だなぁと印象的でした。


 真昼という名前の由来がわかるシーン、いいですよね。応援したくなる主人公です。真昼の人間性が、この小説の読後の良さにつながっていると思います。最後のあのセリフで、全部救われますよ! 人間を信じたい、という彼のスタンスがあの一文で伝わります。


 私は、主任調査官の早霧さんが好きでした。彼女が少年たちと対峙するところがとても好きで……『羊たちの沈黙』を観ているような、緊迫感をもちながら読みました。


 真昼が普通そうに見えるから、周りのキャラクターの個性が引き立っているんですよね。真昼が主人公でほんとによかったなぁと。


――五十嵐さんの近況をご報告させてください。無事に司法修習が修了して、弁護士になることができました!


全員 おめでとうございます!


 五十嵐さんの肩書きが新聞広告で「弁護士作家」になっていましたね!


 1月に刊行された「このミステリーがすごい! 大賞」大賞受賞作、新川帆立さんの『元彼の遺言状』(宝島社)と一緒に並べる書店も多そうですね。赤と黒のジャケットで目立ちそうです。



 そういえば、店頭で『不可逆少年』をずらりと並べていたら、女性のお客様ふたりが立ち止まってくださって、隣に並べていた『法廷遊戯』を見つけて、「これすごいおもしろかった!」と言ってくださっていたんです。それがとても嬉しくて。


 『不可逆少年』、ジャケットもいいですよね! 目立つと思います。私は伊坂幸太郎さんの『逆ソクラテス』と並べたいですね。読み終えても考えつづけられる、深いテーマ性があるので、大事に売りたいと思います。


 おもしろいというだけじゃなくて、考えさせてくれる作品なので、年配の方も含めて、広い世代の方に読んでいただけたらなと思います。


 『法廷遊戯』以上に、10〜20代の若い方々にも読んでほしいです。自分たちの物語だ、と感じてもらえる人たちに届いてほしいし、届けたいです。


 わかります。すごい好きな台詞があるんです。「私は、どうやって大人になればいいんだろう」という、もう一人の主人公・茉莉の台詞です。自分が読んでも、自分はいつから大人になったんだろう? 少年少女から大人ってどうやったらなるんだろう? と考えさせられる投げかけなんですよ。本当に深みのある作品だなと思います。


 僕は真昼の、「自分の目で見るんだよ。いろんな生き方とか考え方を。何が正しいかは、君自身が決めることだ。最初は歪んで見えると思う。それでも、目を背けないでほしい。スタートラインの後ろから走り始めたほうが、視野は広くなる」という言葉がぐっときました。


【ここで、著者の五十嵐律人さんがサプライズ登場!】


五十嵐律人(以降、五) こんにちは、五十嵐律人です。


一同 おおお!


 超良かったです、2作目!


五 ありがとうございます!


――みなさん花火のシーンを褒めてくださっていましたよ。


 花火のシーンは、一番思い入れがあったのでとても嬉しいです! 時系列や誰の言葉なのかまぎらわしくならないように気を付けながら苦心して書きました。


 ラストは最初からこのかたちに決まっていたんですか?


 今回は、ラストを決めずに書いていたんです。自分でも、どう決着をつけたらいいかわからないなかで書き進めながら、第1稿が完成して……。編集者から、「間違っていてもいいから、真昼なりの踏み込んだ答えを出してほしい」とリクエストをされて、そうだよな、と思って。ラスト1行の真昼の答えに行きつきました。


 あのラストがあったから、すごくいい物語になったな、と思いました。


 グサッと刺さりましたね。


 ありがとうございます。


――五十嵐さんが気に入ってるキャラクターは誰ですか?


 やっぱり、佐原漠(ばく)ですね。最後のほうは茉莉の心の支えになってくれるような人物だったので、格好いいなこいつ、と思いました。


――皆様に五十嵐さんからお聞きしたいことはありますか?


 ぼくも応募していた「このミステリーがすごい! 大賞」で、一次選考委員のひとり、宇田川さんのコメントが素敵だったことをずっとお伝えしたかったです!


 ありがとうございます。選評の最後で毎回繰り返している「書店員が頭を下げてでも売りたくなるような渾身の傑作を待っています!」という締めの言葉ですね。何度でも頭を下げますので、どうかこれからも売らせてください。


 いえいえ、こちらこそよろしくお願いします……! ずっと伺ってみたかったのですが、裁判シーンが続くミステリーって、難しい印象を受けますか?


 そんなことはないですよ。でも、『法廷遊戯』を読む前は、リーガルミステリーってとっつきにくいイメージがあったのですが、五十嵐さんの作品はすごくおもしろく読めました。『法廷遊戯』がリーガルミステリーのハードルを下げてくれたと思います。


 ありがとうございます、これからもそう言っていただけるように頑張ります。


 今後、シリーズものを書かれるご予定はありますか?


 『法廷遊戯』はあのラストで完結しているのかな、と思っていますが、『不可逆少年』は、まだ続きを書ける予感を感じています。


 真昼がこの先どんな少年たちと出会うのか、読みたいです!


 私も、真昼の成長はまたぜひ読ませていただきたいな、と思います。


 ありがとうございます! こうして呼んでいただくと、真昼ってなんだかおめでたい名前ですよね……嬉しいです。


 登場人物の名前って、どうやって考えるんですか?


 雨田茉莉は、最初から決めていました。自分のこどもだと名前しか決められないですけど、小説だと苗字まで決められるので。普通だと兄が佐原砂・弟が漠で、「サハラ砂漠」とか、つけないですよね。あとは、『法廷遊戯』の清義はちょっとだけ恥ずかしさも感じています。自分のなかではずっと「セイギ」と呼んでいたので、「王様のブランチ」で紹介していただいたときに、正しく「キヨヨシ」と読み上げられて、音がいまいちな名前だなと……。一番好きなのは咲(サキ)ですね。


 これからもどんな名前が出てくるのか、とても楽しみです。


――3作目の『原因において自由な物語』も少年少女が登場する作品ですので、お楽しみに!


 3作目は、自分で書きたいものがついに書けた、という手応えと、作中で描いたテーマについて考えていただくきっかけになるような作品にできたと思っています。これからさらにブラッシュアップしていきますので、楽しみにしていてください。


――では、五十嵐さんから最後に一言お願いします。


 『法廷遊戯』のときから、座談会でお話しいただいて、本当にありがとうございました。編集者とのやりとり以外で、最初に目にした感想が、みなさんの『法廷遊戯』の座談会でした。自分が伝えたかったことを受け止めていただいてとても嬉しかったです。これからも頑張りますので、よろしくお願いいたします!

デビュー作『法廷遊戯』が、ミステリランキングを席捲!

弁護士作家、弩級の第2作


<STORY>

若き家庭裁判所調査官・瀬良真昼(せら・まひる)。

どんな少年も見捨てない。

そう決めて彼らと向き合ってきたはずだった。

しかし、狐面の少女が犯した凄惨な殺人事件を目の当たりにして、

信念は大きく揺らぐ。

不可解なことに、被害者は全員同じ高校に縁のある人々だった。

被害者遺族の男子高校生を担当する真昼は、

思わぬ形で事件の真相に迫り――?


圧巻の青春リーガルミステリー!

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