『八月の母』評・東えりか
文字数 1,034文字
『八月の母』早見和真(角川書店)
高校卒業後、すぐに地元を離れた私は、そこを出たことのない友達や親戚との付き合い方が分からない。その代わり同窓会などで目にする時間軸と連帯で身動きできない蜘蛛の巣のような関係とは無縁だ。彼らにとっては当たり前の持ちつ持たれつの関係であり、疑問を持つことさえないのかもしれない。
本書はそんな共同体の中で連綿と繋がる母と娘が経験した悲惨な物語だ。
舞台は愛媛県伊予市。最初の登場人物は一九五一年生まれの越智美智子だ。厳格な父が死んだ後、母はその家を飛び出し男に狂う。その母にさえ捨てられた美智子は荒れ、誰の子かさえ分からない女の子を産む。この子が二人目の登場人物、エリカである。美智子はこの子と幸せになると誓う。
徐々に自堕落になっていく美智子を反面教師に、エリカはこの街を出たいと足掻く。だがいつも誰かが足を引っ張る。気が付けばエリカも父親の違う子を二人産み、母の呪縛に雁字搦めにされていた。
そして最後の登場人物が、エリカの三人目の娘、陽向だ。伊予市の市営団地に母と姉、兄と住む陽向はとてもカワイイ女の子だった。
この団地の部屋に来る者を、母はいつでも歓待した。その中に自分の家庭に馴染めない清家紘子がいた。はじめは誰もが寛げる居心地のいい部屋だったが、次第に荒みはじめコントロールできなくなっていく。紘子は陽向を守るために留まるうちに悲惨な事件が起こった。
実際に起こった事件をモチーフに、どうやったら血縁と地縁の呪縛を断ち切れるかが描かれる。辛く暗い物語を、最後に希望へ導いた作家の力量に感服した。閉塞した土地で苦しんでいるのはあなたではないか?
「わきまえない女」が明かす一部始終
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長が辞任に追い込まれた女性蔑視発言で、「わきまえない女」とされた日本ラグビーフットボール協会理事だった谷口真由美が、退任までを暴露した。
法学者で、かつては「全日本おばちゃん党」の党首であった谷口は六歳から十六歳まで花園ラグビー場内にある寮で育ったラグビーの申し子だ。有名選手との付き合いも多く、その関係で理事に推薦された。彼女の心血注いだプロ化への道筋は、ある日反故にされる。これは男性だけの理屈で動く現代日本の縮図だ。