第25回

文字数 2,578文字

「密は避けよ」「旅には出よ」と政府の旗揚げゲームめいた指示に踊る2020年・秋。

連休には各地が観光客で賑わうニュース映像が踊り、空気は変わってきたのかもしれません。


観光もいいけど、でもボクらはやっぱりひきこもり。

そうは思いませんか?


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、困難な時代のサバイブ術!

前回コンビニはひきこもりの希望であり最大の敵ということがわかったため、できるだけコンビニ断ちをすることにした。


しかしお菓子を断つというのは無理であり、そんなことをしたら生きる意味を失い、お菓子と同時に自らの命を絶つことになってしまう。


よって、まず通販でお菓子をまとめ買いし、それを少しずつ消費することにより、コンビニに行く回数を減らし、いらない出費を減らす作戦にした。


そんなわけで我が家に届いた約一月分のイカれたメンバーを紹介しよう。


「カルビーポテトチップスうすしお味×24袋」以上だ。


このように、ひきこもりとして生きていこうとした場合、時には傍から見て「完全にイッてんな」というような行動も必要なのである。

実際、ひきこもりに似た、セミリタイアやアーリーリタイアをしている人に対する世間の目は割と冷たいという。

まず若くして働くのをやめているため、「不安じゃないのか」という至極当然のツッコミを受けることになる。

さらに、「絶対に働きたくないでござる」という〈るろうに魂〉のもと、決して大きくない資産を霧や霞、4世代目の豆苗などを食う生活でカバーしながらセミリタイアしている人もいるので「生きてて楽しいか」と言われることも多いという。


つまり、ひきこもりには「信念」が必要ということだ。

不安ではないか、と問われれば「毎日通勤電車に乗る方がよほど情緒不安になり、各駅で降りて各駅で吐いてしまう」と答え、「楽しいか」と聞かれたら「お前の会社の忘年会よりは楽しい」と言い切れる揺るぎなき信念が必要ということだ。


もしこのようなツッコミに気持ちが揺らいでしまうようなら、人々の意見に耳を傾けながら生きていった方がいい。むしろひきこもりはそれができないからこうなっている、ともいえる。


ひきこもりといったら、心が弱い人がなるものという印象があるかもしれないが、ライフスタイルとしてのひきこもりはむしろ「心強(ここつよ)」でないと務まらないのだ。


そんなわけで、IAM24(イカれた俺が集めたメンバー24袋)と一ヵ月過ごしてみたのだが、効果はかなりあった。

コンビニに行かなければ、無駄な出費を抑えられ、さらに私の唯一の外出動機であるコンビニを封じたことで、外に出る回数を減らすことにも成功した。

やはり「外出」というのは金銭的にも時間的にも無駄を作りやすい行為であり「ひきこもり」ほどコスパの良い生き方はないのだ。


このように、IAM24のおかげでコンビニ費を半分ぐらいに抑えることに成功したのだが、その約50倍もの税金が引き落とされたのが今月末の事である。


もしかしたら私に一番必要なのは些末な節約ではなく「国外逃亡」なのかもしれない。


実はこの「国内逃亡」もひきこもる方法の一つである。


多額の税金や国家権力から逃れるためという意味ではなく、その昔「外こもり」という言葉が流行った。

日本より物価が安い国へ行ってひきこもるという作戦である。


確かに月収が日本円で10万だとしても、物価が10分の1の国に行けば月収100万円ということになり、余裕でひきこもることができる。

現在でも外こもりに行ったり、定年後海外に移住してラグジュアリーに過ごそうという人はいるようだ。


しかし、物価が安い分、命の価値もグラム37円という鶏むね肉価格だったり、日本より遥かにマッドマックスだったり、飯がマズかったり、何より言葉が通じなかったりと、不便なことも多く、日本に帰りたいが今更帰れないという状態に陥ってしまう人も少なくはないらしい。


そもそも己の部屋からも出たくない人間に海の外に出るガッツがあるのか、という疑問もある。

だが、どうにかして低い資産でひきこもりたく、グローバルコミュニケーションやジェスチャーには自信があるという人は、一つの手段として覚えておいても良いかもしれない。


このように、ひきこもりというのはコスパが良く、さらに金や時間というコストの多くを自分のために使えるというメリットがある。

逆に言えば、他人のためにコストを使わないため、全く人間関係が構築できないというデメリットがある。


さらにひきこもり生活を続けると当然ただでさえ低いコミュニケーション能力が低下し、今まで辛うじて話せていた店の店員系と接するのも恐怖に感じてくるため、リアルコンビニにも行けないひきこもりになってしまう危険性もある。


このように、金銭問題に続いてひきこもりの大きな課題なのが、人間関係問題、コミュニケーション問題であり、これはまだ解決策を模索中だ。


ただ他人とのコミュニケーションや人間関係は大事だが、全てが大事というわけではない。


一回しか使っていないサブスクに500円払い続けているのと同じように、どうでもよい付き合いに出費をし続けている場合も多く、その場合「飲み会代5000円」など単価も高いし下手をすると、大して祝福したくもない結婚に「ご祝儀代30000円」を払う場合もある。


ひきこもりでなくても、そういう人間関係は早めに「解約」しておいた方が良い。

全てにおいて「無駄を省く」のが、ひきこもり生活の第一歩である。

★次回更新は10月23日(金)です。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中。

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