現役大学生が読んだ! 荒んだ心に沁みる、あの世界的名作①
文字数 1,450文字
今回はおよそ100年前(!)に出版された世界的名作、ジョン・スタインベックの『ハツカネズミと人間』を読んでいただきました。
令和の学生は、不況の真っ只中にある1930年代のアメリカを舞台にした作品をどう読んだのか…?
自然豊かな1930年代のカリフォルニア。
大恐慌による景気の落ち込みは深く、失業率は高く不況は深刻。
そんな中で貧しい「渡り労働者」として苛酷な労働と住環境で日々を過ごす、しっかり者のジョージと怪力のレニー。
2人には小さな夢があった。
「いつか自分たちの土地を持ち、ニワトリやウサギを飼い、
土地からとれる極上のものを食べて暮らす──。」
辿り着いたとある農場で、新しい仲間たちや雇い主と出会い、2人は夢の実現へと一縷の希望にすがるが──。
貧しい渡り労働者の、苛酷な日常と無垢な心の絆を描く、哀しくも愛おしい世界的名作。
ハツカネズミと人間 感想/M.K
スタインベック作『ハツカネズミと人間』を読む。聞き覚えのある名前だと思ったら『怒りの葡萄』の人だ! 世界史資料集に載っていた思い出……今になってこの100年も前の作家の作品を読むことになるとは思わなかった。
さて、図体ばかり大きいレニーと小男のジョージ、凸凹コンビの暮らしの顛末が書かれる本作、二人は本当にいい連れ合いだ。レニーの方は知的障害をもっているようだが、ジョージのケア(支える指導というよりは、叱責してばかりだが…)のおかげで農場で働き、生活していける。ジョージの方もやれやれといった感じでレニーに救われている節がある。変に格好つけず自分をさらけ出せる相手というのはなかなか出会えないもので、二人の暮らす環境は過酷だが、こんな関係性は本当に羨ましくなってしまう。
メインの二人組が孤独から逃れているのと対照的に、馬屋番として働く黒人のクルックスは名前すらあまり呼ばれず、いつも「黒い奴」「黒いの」呼ばわりだ。登場シーンはあまり多くないものの、その人となりが印象に残る。ことさらに殴りつけられて虐められたりするようなことはないが、当時の黒人に対するリアルな距離感が伝わってきた。
人種差別に加え、本作では貧富の差についても人々の暮らし方を通じて読み取ることができる。どうやら凸凹コンビや他のキャラクターたちは貧富の貧の側にいるようだが、二人は少しでもいい未来を願い続ける。自暴自棄になってもおかしくない生活の中で希望を捨てずにいられるのは、レニーにはジョージ、ジョージにはレニーという存在があるからだろう。親友っていいな。
『ハツカネズミと人間』を読むにあたって当時の時代情勢などはあまり考えに入れなかったのだが、本作のあちこちに散りばめられた貧しさや暗さ、差別や偏見については現代にも通ずるものがあるようで、描かれる状況が悪いほど、そのさなかを二人三脚で駆けたレニーとジョージの生き方が際立っているように感じた。
それと作中で人気を博していた蹄鉄投げは少しやってみたい。今でも盛り上がるかな。
アメリカの小説家・劇作家。1929年に処女作『黄金の杯』を出版。’34年には短編小説「殺人」が『ノース・アメリカン・レビュー』4月号に掲載され、これにより「O・ヘンリー賞」を受賞する。’97年に『ハツカネズミと人間』(本作)を出版する。’57年には国際ペン大会で来日を果たした。’62年にノーベル文学賞受賞。