第6回

文字数 2,393文字

感染拡大がいったん収まり、一部外出や経済活動が解禁されたものの

「withコロナ」時代を生きることになった人類。


仕事も飲み会も「家でやろう」に変わり、パリピやリア充から

まさかのひきこもりに主役の座が移ったように見える。


しかし、「明治維新以来の日本の夜明け」とのぬか喜びは禁物、

そこには様々な罠も潜んでいた!?


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする

困難な時代のサバイブ術!

前年に比べ、今時期の自殺者数が減っているそうだ。

例年であれば今はゴールデンウイークが終わり、五月病に陥り、早い人間だとすでに退職や通院をキメているところである。


コロナウイルスの影響で会社や学校に行かなくなったことにより、人々のストレスが減り、自殺者数が減ったとは安易に言えない。


しかし「会社万病の素説」は昔からあった。健康になりたいなら酒やタバコなんぞを止めるよりまず会社を辞めた方が良い。

そもそも会社のストレスで、ストロング0を静脈に直接打つ勢いで痛飲している人間だって大勢いるのである。


しかし諸悪の根源である会社を辞めると、今度は経済不安によるストレスや、飯が食えなくなるという物理で健康を害してしまうという、狂っているとしか思えないシステムを人間自ら作り出してしまったため、我々はデフォルトでちょっと病(ビョウ)であり、大人になると調子が良い日というのが基本的にない。


もちろん体に悪いのは会社だけではない。人によっては学校も悪いし、PTAや自治会の集まりなども相当悪い。


つまり「社会」、そして「他人は体に悪い」のである。


前回、他人の目があるからこそ人は人でいられる、という話をした。

他人に会うから、風呂に入り服を着るのである。他人の目がなく家から出ないという「ひきこもり」状態になると、裸族とまでは行かないが「パンイチ」など少なくとも衣服という文明が「退化する」のは確かなのだ。


ちなみに、在宅勤務になったことにより「ウンコをもらしやすくなった」という統計が出ている。

統計は言い過ぎたが、少なくとも2人ぐらいは漏らした奴を確認しているのでG理論で行くと60人ぐらいは漏らしていると言える。


これはコロナウィルスが肛門括約筋に影響を与えるというわけではなく、在宅勤務により、いつでもトイレに行けるという安心感から我慢しすぎたり、他人がいないことにより、安易に屁をこき勢いで実弾が発射されるという事故率が上がったからだ。


つまり、気のゆるみから尻の穴も緩んだということである。


何も上手い事は言っていないが、他人の目がないというだけで、人は漏らさなくて良いウンコまで漏らしてしまうのである。

逆に漏らして良いウンコとは何だ、というとディープな話になってしまうので、この話はこれ以上掘らないが(尻だけに)他人の目がないと、いとも容易く人間は人間の尊厳を失ってしまうということだ。

だからといって動物になるというわけでもない。お動物様だってそうそうウンコは漏らさないのだから失礼である。つまりただダメな生物になってしまうということだ。


しかし他人の目というのはいわば「緊張感」である。緊張感があるから隙を見せないように服を着るし、尻も締めるのだ。


それが生きる張りになっているのも事実だが「緊張状態」というのは当然ストレスであり、心身ともにストレスこそが万病の素である。


よって社会の中でも緊張感が強い会社は特に体に悪いし、会社の人間と上手くコミュニケーションが出来なければ緊張感はより増していく。


そういう、自ら周囲を触るものみな傷つけるギザギザ職場にしてしまっている人間にとって、今回在宅勤務になったことにより、緊張感から解放され仕事が出来るようになったというのはやはり救済であったのではないか、と思う。


会社にとっても社員がストレスで退職や休職というのは不利益でしかない。せっかく働き方が多様化したのだから、できれば社員個別にストレスが少ない仕事環境を与えた方が、会社のためではある。


ひきこもりも社会問題の一つにされてはいるが、よく自殺があったあとに「死ぬぐらいなら逃げれば良かった」のにと言われる。

完全な結果論であり、そういう人はすでに逃げる気力すらなくなっているのだが、逃げた方が良いというのは確かであり「ひきこもり」というのはまさに「逃げ」の一つである。


つまり誰とも会わず社会と関わらずひきこもる、という行為も場合によっては必要なのだ。

そういう回復期間の人間を無理矢理外に出すと、それこそ死の恐れが出てくる。


では、ずっとひきこもってノーストレスで生きて行けば良いような気もするが、「ひきこもり期間が長くなるほど、社会に出た時のストレスが増す」という弊害がある。


つまり「お外怖い、人怖い」状態になってしまい、急に社会や他人と関わらなければいけない事態になると、極度のストレスを感じることになるのだ。


今回、外出自粛によるストレスで死んだという人は多分いないと思うが、逆に今後「外出推奨」という状態になったら、ひきこもりが大量死する恐れがある。


ひきこもりは、陸という社会より家の中という水の中の方が快適に生きられる生き物である。

しかし、一生水から出ないということも不可能なのだ。


たまには陸に上がって肺を鍛えておくことも、ひきこもりには大事なのである。

★次回は6月12日(金)更新です。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色