第85回

文字数 2,202文字

まぁ冬やね、という冷え込みになってまいりました。

ガンガンエアコン焚いて部屋をあっためて、風邪ひかないようにしような。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!

ひきこもりの問題は家庭内だけで解決することは難しく、外部の支援が必要である。


というようなことを3回ぐらいコピペしてきたが、具体的に「外部の支援」はひきこもりとその家族に何をしてくれるのだろうか。


いくら支援会と繋がったとしても、そこで行われているのが一日中お互いの容姿を爆笑し合うグループディスカッションだったら、外に出るどころか家の中でも紙袋をかぶって生活するようになってしまう。


そこで我が村の支援団体の支援内容を見ると、「1人1人にあった対処法を考える」という至極当然のことが書かれてあった。


確かに機械であれば共通のマニュアル通りにすれば直るものであり、「一つ一つのルンバにあった修理をします」ということはない。

しかし人間は機械より遥かに劣っているため「対処するためにまず対処法を探すところからはじめる」という、ラーメンを作るためにまず小麦を育てるような、DASH村方式で当たらなければいけない。


しかし機械にも、「コンセントが入っているか確認する」という全機種共通の対処法があるように、ひきこもりにも基本的な対処法はあるらしい。



ひきこもりからの脱却は、やはり段階的にやることが大事だそうだ。

やはり引き出し屋に頼んで無理やり外に出すという方法はあまり良くないらしい。


人間より遥かに優れている機械であれば「殴ったら直った」ということもあるかもしれないが、脆弱な人間に同じ方法をとると最悪再起不能になってしまう。


まずひきこもり脱却のゴールはどこなのか。

もし「部屋から出す」ことであれば、力士を2人ぐらい雇えば解決である。だがそれは首を斬り落とすことにより「5キロのダイエットに成功!」と言っているようなもので、根本的解決にはなってない上に、また別の問題を引き起こすことになる。


おそらくひきこもり問題の解決というのは、物理的に外に出ることではなく、外部の人間とコミュニケーションを取ること、そして就業し経済的に自立することだと思われる。


その両方を兼ね備えているのが「就職」である。


実際は「会社に入れば外部の人間とコミュニケーションできるといつから錯覚していた」であり、会社にいても普通に孤立するのだが、収入が得られるのだけは確かである。


しかし、いきなりひきこもりがフルタイムの正社員になるのは難しい。

段階的にやるとしたら「アルバイトから」などが正しいように思えるが、実はそれでも「17歳でハーバード大学卒」のような、雑な漫画に出てくる雑な天才キャラレベルの飛び級なのだそうだ。


もちろんひきこもりの年季によるが、ベテランクラスになると、まず家族とコミュニケーションを取らせ、それで大丈夫になったら外部の人間が家に訪問し接触するという。

つまり、家から出す前に2フェーズは挟むというミルフィーユ仕立てだ。


そしてやっと外に出られるようになったとしても、いきなりアルバイトなどは時期尚早だという。

まずは、ひきこもり当人や家族が集まる会などに所属し、そこでコミュニケーションが取れるようになったら、次はひきこもり以外がいるグループにも入ってみて、ポリス沙汰などの問題が起きなければ、そこではじめて「就労」という選択肢が視野に入ってくるという。


ひきこもり1人を働かせるのに伝統工芸なみの工程を経ているような気もするが、逆に「社会に出て働く」ということの難易度が高すぎであり、それが「当たり前」と認識されている社会の方に問題があるのではないか。


社会に出て働くというのは特別な才能を持った人のみができることであり、カテゴリーとしては「プロ野球選手」と同じと言っても過言ではない。

つまり会社勤めをしている人は「プロ社会人」なのである。


野球の才能がない人間が「プロ野球選手になる」と言い出したら、「身の丈にあった職業につけ」と止めるのに、なぜ社会性という才能を持ってない人間が社会のプロである「会社員」になると言いだしても止めないのか、身の丈にあった職業につけというなら「会社員なんてお前には無理だ、無職ぐらいにしとけよ」と諭さないのだろうか。


つまり、社会で働くという高難易度クエストにひきこもりを挑ませるより、社会自体の難易度を下げた方が早いような気がする。

むしろ、これだけひきこもりが発生してしまったのは、社会の難易度が高すぎるせいなのではないだろうか。


コース難易度が高ければ、脱落者が増えるのは当然である。


脱落者をコースに戻す支援も大事だが、脱落者を出さないよう最初から社会をヌルゲーコースにするのも大事なのだ。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

★次回更新は12月17日(金)です。

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