第74回
文字数 2,471文字

秋シーズン到来!
天高くひきこもりデブる季節、みなさんいかがお過ごしでしょうか。
脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、
困難な時代のサバイブ術!

ネットのワクチン予約戦に敗れつづけていたが、一足先に打ちに行った家人からの「今、予約受付してるらしいぞ」の一報により、難なく予約を取ることができた。
このように、何でもネットで調べられるようになったとはいえ、未だにリアルネットワークからの情報の方が早い場合も多く、特に命に関わるような情報はネットよりも現場に聞いた方が絶対に良い。
ネットで避難所を検索している間にLOSERのPV状態になったり、体の不具合について調べた結果、医者に行くより霊験あらたかな水を1ダースほどポチることを選んでしまったりするのである。
それよりは、やたら地域情報に詳しく敵に回すと怖い知り合いが一人いた方がいいし、未だに体温計が水銀だろうが病院に行った方がいい。
この「リアルネットワークがおろそかになる」というのがひきこもりにとって大きな課題であることは否めない。
ただ、そういう人間が人知れず死なないように、地域情報を提供するLINEやアプリを活用している自治体もあるため、リアルネットワークが希薄な人間はまずそういうものがないか、お得意のインターネットで調べてみるところから始めてみるといいかもしれない。
ともかくワクチンの予約は取れたが、怖いのは副反応である。
先だってワクチンを接種した両親や祖母は何ともなかったと言っていたので、副反応と言っても大したことがないと思っていたのだが、ツイッター川には厳しい副反応報告が次々と流れてきている。
どうやら老の体は「不調」がデフォルトなため、多少の副反応程度なら脳が「いつものやつ」として処理してしまうようだ。
突発的な事態に慌てる新兵を尻目に、「よくあることよ」と茶をすする老兵のようでカッコいい。
しかし、不調がデフォルトという点では漫画家も負けていない。よって「漫画家副反応感じない説」を期待していたのだが、ツイッターを見る限り、漫画家もバッチリ副反応を出しているようである。
それを考えると、老の体は衰えすぎてむしろ強靭になってしまっている気がする。
副反応自体も怖いが、さらに怖いのがそれで1、2日使い物にならなくなってしまう可能性があることだ。
副反応は発熱、頭痛、腕の痛みなど個人差があるようだが、どれが来ても漫画を描くのは厳しい。
私の漫画は画力的にケツにペンを刺して描いていると思われることが多いが、意外なことに腕を使って描いているのである。
ギリギリで仕事をしている作家にとっては、この1、2日が結構な命取りである。
そうなったら休載もやむなしだが、もちろんその分の収入がなくなってしまい、コロナには罹らずとも別の意味で生活に困ってしまう可能性がある。
これは漫画家に限ったことではない。
そうなったら反ワクチンとか思想的な意味ではなく、「目先の収入のためにワクチンを打つことを躊躇」してしまう可能性がある。
休業要請と同じで、休みたいのはやまやまだが休むと生活が立ち行かないため、仕方なく店を開けているという人もいる。そういう店を閉めさせるには、閉めても大丈夫な補償が必要である。
ワクチンも同様に、数日ぶっ倒れても大丈夫な補償がなければ、ぶっ倒れるわけにはいかない人たちが打つのを躊躇してしまい、一定以上から接種率が止まってしまうかもしれないのだ。
つまり、ワクチンを打てと言うなら、一律ワクチン休暇、ワクチン補償などが必要である。
これで解決だと言いたいところだが、ワクチンを打ちに行ったら、寝込んでもいいように補償を渡す、もしくはカントリーマアムかプチをあげると言えば、確実に接種率は上がると思う。
だが、それでも100%には多分ならない。
何故なら、前にも言ったが俺たち「めんどうくさい勢」が残っているからである。
10万の給付金すら面倒という理由で申請しなかっためんどうくさい勢である。
「副反応で動けなくなるかもしれない数日分の日当」如きで行くはずがない。
このように、鋼のような強い意志、そして金では動かぬ高潔な精神の持ち主がめんどうくさい勢なのである。
こんな奴をどうやったら説得し、動かせるのか、自分でも皆目見当がつかない。
こういうタイプを家から出そうと思ったら、家の方を解体した方が早いので、ワクチンも打ちに来るのを待つのではなく、「ワクチンの方が刺さりに行く」ようにしなければ100%は難しい。
そして、ひきこもりになると、自ずとこのめんどくさい勢になってしまうパターンが多いのだ。
面倒くさがりだからひきこもりになったのか、ひきこもりだから面倒くさがりになったかは、未だに哲学者の間で議論されているテーマではあるが、とにかく面倒くさがりが多い。
そんな私がなぜワクチンの予約をしたかというと、「で、そっちはいつ打つの?」と逐一せかしてくる同居人がいるからである。
逆に言えば、一人だったら「打つ気はあるっす!」とファイティングポーズを取ったまま永遠に打ちにいかない可能性がある。
このように、ひきこもり、それも一人でひきこもる人は「死因:めんどうくさい」になりがちなので、ひきこもった後もいざという時は外に出るフットワークを維持していかないといけない。
もしくは国は早く「刺さりに来るワクチン」または、「ひきこもりでも外に出るレベルの補償」を用意すべきだろう。
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中