町田 康⑤

文字数 1,299文字

町田康さんが猫との暮らしを描いたエッセイは、2000年4月に「猫の手帖」で連載が始まった。以後、「FRaU」、「Grazia」に連載され『猫にかまけて』『猫のあしあと』『猫とあほんだら』『猫のよびごえ』と4冊の本となって刊行された。

行き場をなくし、生命の危機に瀕している猫たちを連れ帰り、治療を受けさせて世話をする。それでも別れは訪れる。日々を淡々と丁寧に、写真とともにつづった作品に溢れる猫たちの愛らしさと生命の尊さ。長い人気を誇るベストセラーシリーズを紹介する。


写真/扉:但馬一憲  他すべて:町田康・町田敦子

※2016年IN★POCKET11月号より

『猫とあほんだら』 講談社文庫
『猫のよびごえ』 講談社文庫

  ***


家を探しに行って猫と出会う。


 飼っている猫が自宅と仕事場に分かれ、毎日、両方の猫たちの世話をしていた町田さん。思い立って、すべての猫と同居できるような家に暮らしたいと、伊豆半島に家を探し始めた。

 一泊の予定で物件の見学に出かけ、不動産屋の担当者に案内されて向かった一軒目の家の玄関先に、子猫がいたのだった。 


     ***


シャンティー(2006〜/10歳/おす)


夜中に徳利を運ぶ、茶碗を叩き落とすなどの行動で、悪の枢軸と呼ばれるまでに元気に成長。町田さんをママと定めて一番に甘える猫。ときどき目つきが田中眞紀子元衆議院議員に似ている。

   ***


パンク(2006〜/10歳/めす)


シャンティーと一緒に捨てられていた猫。弱々しく元気がなかったためパンクと名付けたが元気すぎるくらい元気な猫となった。極度の食いしん坊。

  ***


 メインの国道から少し海の方へ入った物件の前でクルマを降りたところ、建物の軒先にそいつらはいた。

 掌に載るくらいに小さな、二頭の子猫であった。

 おりからの雨に体温を奪われて寒いのか、二頭は重なりあうようにして寄り添い、震えていた。

 家人が言った。


 「どうしよう」


 「どうしようって?」


 「連れて帰らなくていいかなあ」


 「うーん」


 と私は唸った。子猫はまだ生後一ヵ月も経っていないようだった。この大きさの猫の面倒を見るのは実に大変である。また、ウイルスに感染していたら奈奈やエルとは一緒に飼えない。さらには、これからまだいくつか物件を見て回らねばならず、子猫を連れては歩けない。けれども私どもが見捨てたらどうなるのか。親猫が近くにいればよいが、おらなかった場合、腹が減って死んでしまう。


 「うーん」


 「うーん」


 家人と二人で唸っていると、不動産屋の兄チャンが困惑したような顔をしていた。


(『猫とあほんだら』より)


▼拾った夜にシャンパンを飲んだので、シャンとパンと命名。シャンはシャンティー(平安)、パンはパンクの略。元気になることを祈ってつけられた名前の甲斐あってか二頭とも立派な猫に成長した。

    ***


いろんなことが変わっていく。時間が過ぎていく。


 やがて私も死ぬ。


 そのときまで、こうして、みんなが生きていたこと、生きた時間を書いていきたい。そうおもっている。


(『猫のよびごえ』より)

『猫にかまけて』 講談社文庫
『猫のあしあと』 講談社文庫

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