第83回

文字数 2,505文字

まぁ冬やね、という冷え込みになってまいりました。

ガンガンエアコン焚いて部屋をあっためて、風邪ひかないようにしような。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!

前回に引き続き、世間のひきこもり情勢を知るために、中学生がとりあえず「セックス」と検索してみる感覚で「ひきこもり」と検索してみたところ、やはりコロナの影響でひきこもりが増えたというニュースがヒットする。


ちなみにひきこもり系ニュースというのは、ひきこもり本人を取材したものもあるが「ひきこもりの子どもを持つ親」を取材したものの方が多い印象である。


何せ本人はひきこもっているのだ。

むしろメディアの前に出て「いや、マジでヤバいですよ」と言えるひきこもりは、まだヤバくない気さえする。

実際大変度で言っても、ひきこもり本人よりもそれを養い生活の面倒を見ている家族の方が大変な気がするので「とにかく大変そうな人を取材したい」という場合はひきこもり本人よりも家族の方にアタックしがちなところがある。


確かにひきこもりを支える家族が大変なのは事実なのだが、ひきこもりの子どもに悩む親ばかり映すと「老親にここまで心痛を与えておいて平気な顔でひきこもっているひきこもりというのは、一体どれだけ舐めた野郎なのだ」というイメージを助長させるので、それはそれで問題なのである。


やはり人間というのは、かわいそうなものより「かわいそうに見えるもの」に手を差し伸べたくなるものなのだ。

どれだけ実情がかわいそうでも、後ろ髪だけを伸ばした子供には何となく愛の手を差し伸べたくなくなるものなのだ。


生物学的に見ても、赤ちゃんがカワイイのは庇護欲を煽ってちゃんと育ててもらうためとも言われているし、おキャット様があれだけ完成されたビジュアルをしているのも、人間を完全に奴隷化するためである。

己をかわいく見せる、またはかわいそうに見せる、というのは生物が生きていくために必要な能力の一つなのだ。

つまり、デフォルトの顔が「半笑い」に生まれて来てしまった人間は、それだけで生物的ハンデを背負っていると言える。


ひきこもりはその能力がほぼ皆無であり、どちらかというと「あまり可愛くない生き物」に見えてしまっているので「なぜ俺様が外で働いて納めた税金を、家の中でのうのうと生きている連中を助けるのに使われなければいけないのか」という反発に繋がってしまう。なかなか支援制度が確立されなかったのも日本がこれだけのひきこもり大国に発展してしまった要因の一つと言えるかもしれない。


しかし最近ではひきこもりには外部の支援が必要だとして、多くの相談窓口や支援団体が存在する。

調べてみると、なんと我が村にもひきこもりを支援する窓口が存在するらしい。


我が村にあるということは、もはやひきこもり相談窓口がない地方は日本に存在しない、ということである。

「どこにも相談できる場所がない」ということはほぼないと思うので、一度地元の窓口の有無を調べてみた方が良い。

ない場合は、ひきこもり問題以前に異世界へ転生してしまっている恐れ、もしくは、自分の住んでいる土地が日本地図に記載されていない恐れがあるので、そっちを先に調べた方が良いだろう。


では、日本地図には辛うじて載っているが、人々の記憶からは抹消されているでお馴染みの我が村では、一体どんな支援が行われているのであろうか。


まず支援センターの公式HPに飛んでみたところ、阿部寛の公認HPリスペクトと思われる大変手作り感あふれるページが出てきた。

これは作ったはいいが15年前から更新も活動も停止しているやつでは、と思ったが最終更新日が今年の9月になっていたのでちゃんと現役で稼働しているようだ。この点もちゃんと阿部寛HP魂が継承されている。


HPではまず未だに議論になり続けている「ひきこもりの定義」について書かれているのだが、我が村によると「半年以上学校や会社などに行かず家に引きこもっている状態」を指すそうだ。

その定義で言うと、私はひきこもり6人分ぐらいに相当することになる。

そして、その中でも精神疾患などを原因としないひきこもりを「社会的ひきこもり」と呼ぶそうだ。


社会的ひきこもりの具体例として、学校を卒業してから何もしていない、家族とも話さず部屋にひきこもっている、昼夜逆転の生活をし、深夜にコンビニだけ外出するなどが挙げられている。

もはや「コンビニだけはいく」というのはひきこもりの特徴ではなく「定義」にまでなっているようだ。むしろコンビニとひきこもりの関係性の謎を解くのが、ひきこもり問題を解決する鍵と言っても過言ではないような気がするが、おそらくコンビニ業界はあまり関連付けてほしくないと思ってそうな気がする。

そしてひきこもり問題を解決したいなら、まずは家族がガミガミ言わないことが大事だと書かれている。


ただし、これは各所で言われ尽くしたことであり、目新しい情報というわけではない。

しかし一点だけ、「核心」と言っても過言ではない一文を発見した。


「ガミガミ言いたくなる気持ちはわかりますが、見かけによらず一番焦っているのは本人なのです」


つまり「家族や周りを心配させておいて本人は舐め腐っている」というのが、やはり世間一般におけるひきこもりの「見かけ」ということだ。


やはりどれだけ辛くても、見た目が「舐めている」というのは致命的なのである。

早急に理解や支援に繋がれるように、「舐めて見えないひきこもり仕草」の開発が急がれる。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

★次回更新は12月3日(金)です。

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