吹き飛んだ頭蓋と脳髄、それを拾う夫人。「魔弾の射手」によるテロの真実。

文字数 2,286文字

「われは知る テロリストの かなしき心を」(石川啄木)。テロは民主主義にとっての脅威である。しかし、暗殺が歴史のうねりを加速させた例は数多い。そんな暗殺事件から世界の歴史を俯瞰する。(年齢は事件当時)

衆目のなかで世界のリーダーの頭が吹き飛んで、謎が残る。

ケネディ大統領暗殺事件 1963

ケネディ大統領(46)の暗殺にまつわる陰謀論は数多く、「亡命キューバ人による犯行説」「KGB犯行説」、さらには「宇宙人関与説」を唱える人までいて、議論は今もやまない。


大統領夫妻を乗せたオープンカーが銃撃されたのは、11月22日午後0時30分。


政府発表によれば、発射された3発のうち、1発は車列をそれたが、2発がケネディに命中した。1発はケネディの上背部から入って喉から抜け、さらには前席にいたテキサス州知事をも傷つけた。


「ノー!ノー!ノー!皆殺しにされるぞ!」


知事のこの叫び声を聞いた運転手は、一度振り返ってブレーキを踏む。その瞬間、次の銃弾が大統領の頭を吹き飛ばした。


シークレットサービスのクリント・ヒルが車に飛び乗り、運転手にそのまま病院に向かうように指示をする。


「He is dead!(彼は死んでいる)」


病院に到着した時、ジャクリーヌ夫人は大統領の破壊された頭部を隠すように抱えこみ、こう叫んだという。病院に着いた時、ケネディの心臓はかすかに動いてはいたが、もはや手の施しようがない状態だった。


事件発生から80分後、共産主義者のオズワルドが逮捕される。


オズワルドは元海兵隊員でレーダー員として厚木基地に勤務。この時、安月給だったにもかかわらず、銀座で派手に遊んでいたという話もある。そして、1959年にソビエト連邦に亡命。レーダー員として知り得た極秘情報をソビエトに提供したと言われる。


さらに、ソビエトで結婚までしたが、その3年後、なぜか妻と共に帰国している。


オズワルドは勤務先の教科書会社倉庫6階、車列の後方からケネディの後頭部をライフルで狙撃したとされている。


6階の窓からライフルを構えた男が二発目を発射する瞬間を目撃したという沿道の人物の証言がある。また、階下にいた教科書会社の従業員はライフルのボルトを動かす音や薬莢が床に落ちる音を聞いているから、ここから「何者かによる」射撃が行われたことは間違いないだろう。


当初、「私ははめられた」と供述していたというオズワルド。しかし、逮捕から2日後、移送のためダラス警察署を出ようとした時、ジャック・ルビー(52)という“自称・ケネディファン”に射殺されてしまうのだ。


ルビーが語った犯行の動機は「悲しむジャクリーヌ夫人と子供たちのため」という、不可解なものであった。ルビーは刑務所に収監されたが、4年後に肺がんで死んだ。


オズワルド単独犯行説への数多い疑問点のうち、最大のものは、暗殺の瞬間を撮影した映像では、ケネディの頭部が前方から銃撃されているように見えることだろう。


確かに、ケネディは2発目の銃弾に頭を貫かれた瞬間、後ろにのけぞり、頭蓋や脳の一部は、後方に吹き飛んでいる


事実、大統領の隣に座っていたジャクリーヌ夫人は、直後に車の後方のトランク部分に這い出し、これらの脳や骨片のいくつかを拾って、病院で医師に渡している。


また、大統領の治療に当たった医師は直後の会見で「頭部の傷は前方から撃たれたものだった」と語っているが、その後に「どちらかから撃たれたかはわからない」と発言を取り消している。


また、車の前方の丘から「発砲煙が上がるのを見た」などの証言が複数あるのも事実だ。


しかし、司法解剖の結果は死因は後方からの銃撃によるものと結論している。検視写真に見える右側頭上部の“破壊”や、映像から確認される頭蓋の飛散状況は、オズワルドのいた後方・高所からの銃撃によっても起こり得るとする専門家は多い。


もう一つ、ケネディを貫通し、前席の知事の肺や手首、太股を傷つけたとされる弾の弾道が不自然だという、いわゆる“魔法の銃弾”疑惑。これについても、大統領や知事の座っていた姿勢や位置を詳細に検証すれば、弾道は直線に近づき、十分説明できるという。


さらに言えば、事件後のオズワルドの行動は、いかにも「犯人らしい」と言わざるを得ない。彼は教科書会社に警官が踏み込んでくると、こっそり会社を抜け出し、息を切らして自宅に戻ると、着替えをして慌てて出かける。


そして、職務質問してきた警官を射殺し、チケットを買わずに映画館に飛び込んだところを通報され、逮捕されているのだ。


だが、これですべての疑問が解けるわけではないのも事実だ。


2003年の調査では、政府の発表したリー・ハーベイ・オズワルド(24)の単独犯行説を信じていないアメリカ国民は、全体の70パーセントに及んでいる。


確かに、事件の巻き添えで重傷を負ったテキサス州知事、ジャクリーヌ夫人、シークレットサービスなども、政府の発表と矛盾する証言をしている。


さらにはケネディの後を襲ったL・ジョンソン大統領も、弟のロバート・ケネディも、政府発表とは異なる見解を語っているのだから、国民の不信も致し方ないと言えるだろう。政府によって証拠物件の公開が2039年まで制限されていることも不自然だ。


百出する陰謀説、それ自体が、アメリカの“闇の深さ”を物語っているようだ。

『パラノイア合衆国 陰謀論で読み解く《アメリカ史》』ジェシー・ウォーカー/著 鍛原多惠子/訳(河出書房新社)

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