『少女には向かない完全犯罪』書下ろしエッセイ/方丈貴恵

文字数 1,621文字

第29回鮎川哲也賞を受賞しデビューしたロジックの名手・方丈貴恵さんの新作『少女には向かない完全犯罪』が刊行です!

方丈さんがtreeのために、特別にエッセイを書下ろしてくださいました!

↓ちなみに…『少女には向かない完全犯罪』はこんなお話!↓

少女と復讐と幽霊と/ 方丈貴恵


 皆さん、復讐の物語は好きですか?

 私は小説でも映画でも、『復讐』『報復』の要素を見つけると、それだけで喜んでしまうほど大好きです。主人公は悪の魅力があるほうがいい。娯楽の王道にして、もっともエキサイティングな設定の一つですよね。

 中でも――報復を切望してはいるものの、自分の力だけではそれを果たすことができない。だから、報復をサポートしてくれる助っ人と組む――そんな物語は古今東西、傑作がたくさん生まれています。

 山田風太郎『柳生忍法帖』も、都筑道夫『暗殺心』もそういった要素を強く持っていますし、リュック・ベッソン監督の映画『レオン』もそうです。

 特に『レオン』は、ナタリー・ポートマン演じる少女と、ジャン・レノ演じる殺し屋のおじさんの関係性が風変わりで、今なお強烈に心に焼きついています。


『少女には向かない完全犯罪』も冒頭で、両親を失い復讐を誓う少女・音葉と、ビルから突き落とされて幽霊になった犯罪者・黒羽が出会い、バディを組みます。

 音葉は生意気ですが、まだ子供だから何もできない。黒羽も肉体を失ったせいで何もできなくなってしまった。復讐はおろか……誰が音葉の両親を殺したのか、黒羽を突き落としたのか、突き止めることすらできません。

 最初はデコボコな二人ですが、互いの『らしさ』を活かした作戦で、どんどん不可能を可能に変えていきます。


 ここまで読んで、「既存の方丈作品とは雰囲気が違う?」と感じた方もいらっしゃると思います。

 ご明察です、本作は私にとって新たなチャレンジの宝庫となりました。

 今回、舞台はあえて本格ミステリの王道的設定の一つ、クローズドサークルではなく、街そのものにしました。少女と幽霊は街を縦横無尽に駆けめぐって調査し推理し、犯人を追い詰めます。

 ノット・クローズドだからこそ生まれる、主人公が犯罪者だからこそ生まれる、エンタテインメントと人間ドラマの広がり……。更に、そこに本格ミステリの真髄たる謎とロジカルな推理を、鮮やかに濃厚に融合させることはできないか? それを追求したのが本作です。

 執筆には苦労しました。本格ミステリ部分こそ第一稿で概ね定まっていたものの、編集者と打合せを重ねてアドバイスをいただき、大幅な改稿を二度も行いました。心折れそうになったことも数え切れず……やっと、満足のいく内容にできたと思います。

 とはいえ、作者が『新境地』について語ろうとすればするほど野暮になるのも事実。どんな読み心地の本格ミステリになったかは、実際に味わっていただくのが一番かと思います。

 少女と幽霊のバディが贈る、めくるめく冒険と成長の物語をお楽しみ下さい。

方丈 貴恵(ホウジョウ キエ)

1984年、兵庫県生まれ。京都大学卒。2019年『時空旅行者の砂時計』で第29回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。長編第二作の『孤島の来訪者』は「2020年SRの会ミステリーベスト10」第1位に、第三作『名探偵に甘美なる死を』は第23回本格ミステリ大賞の候補に選出されている。他の著書に『アミュレット・ホテル』がある。

なにもできない二人が、
逃げ、考え、罠にかける!
頭脳戦の楽しみに満ちた爽快な復讐譚!

黒羽烏由宇は、ビルから墜落し死につつあった。
臨死体験のさなか、あと七日で消滅する幽霊となった彼は、
両親を殺された少女・音葉に出会う。
彼女は、出会い頭に彼に斧を叩き込んで、言う。

「確かに、幽霊も子供も一人じゃ何もできないよ。
でも、私たちが力を合わせれば、大人の誰にもできないことがやれると思わない?」

天井に足跡の残る殺人、閉じ込められた第一発見者、犯人はこの町にいる。

登場人物紹介

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