第61回

文字数 2,465文字

夏が来たといってもいいのではないか。


ひきこもり同士諸君は、梅雨でカビないよう除湿を使いこなそう。

文明の力で四季折々の快適な籠城ライフ!


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!

不審者と思われるから太陽が出ているうちは外に出ない、と言ったところ「不審者と思われても良いから朝、日光を10分は浴びた方が良い」と言われた。


これは後に「10分の朝日は通報されてでも浴びろ」という諺として後世に語り継がれることとなるが、それはまた別の話(ナレーション森本レオ)である。


しかし、医学というのも未だに日進ムーンウォークである。

何百年も言い伝えられてきたことが、今になって全くのガセだと判明することなど普通にある。


最近だと「酒は百役の長」が全く無根拠であると発表されていた。

ただし、これは全員薄々気づいていたと思う。

頭(ず)が割れるように痛くなったり、転倒してリアル頭(ず)を割ったり、永遠にゲロを吐き続けるマシーンになる飲み物が体に良いわけがない。

わかってはいるが、酒を飲む口実としてちょうど良かったため、撤回しなかったのではないだろうか。

しかし、ストロング○がブームとなり、このまま酒が体に良いという口実を与え続けると、日本全土がアル中病棟になるという危惧から、慌てて「根拠なし」としたのかもしれない。


ちなみに何故酒が体に良いと言われるようになったかというと、昔酒というのは金持ちしか飲めない物であった。

そして金持ちというのは栄養状態も良く、医者にもかかれるため長生きが多く、その結果「酒を飲む奴は長生き」と曲解されたそうだ。


つまり「酒は百薬の長」ではなく「貧乏人は早死に」という、ただの嫌な事実である。


しかし適量であれば、「酒は体に良い」と思い込むことで本当に健康になる可能性はある。

少なくとも、「今日もこんな色つきゲロの素汁に金を使ってしまった」と思いながら飲むよりは精神面での健康に良い。


そもそも、世に出ている医薬部外品は確たる根拠がある物の方が少ないと言われている。


サプリ類にも、ほぼ必ず「個人の感想であり、効果を保証するものではない」と、我々クソライターが良く使う炎上避けみたいなことが書いてある。

また、ウンコの力みたいな悪酔い防止ドリンクや、年寄りが飲む関節痛が良くなるヒアルロン酸サプリなど、すでに「効果なし」と言われているのも多い。

それにもかかわらず、未だにコンビニにはウンコのようなものが並んでいるし、サプリ類に年金を惜しまない老は多い。


老は情弱だから、と思うかもしれないが、それは逆に老を見くびりすぎな気がする。

何せ老は我々より長生きであり、いろいろなことを経験しているのだ。


「実はこれが嘘でした」なんてことは何度もあったはずである。

戦前生まれなんて「勝つと言われていた戦争に負ける」という超ドッキリを食らっているし、「アイドルもウコンする」という耐えがたきを耐え、忍び難きを忍んできた世代もいるだろう。


そんな面構えが違う連中が、サプリに効果がないと言われたぐらいで今更ビビるとは思えない。

つまり、重要なのはサプリ自体の効果ではなく「サプリを飲んでいるから関節は痛くならないし、股間もバッチリに違いない」という「思い込み」であり、おそらく老はそれを求めているのだ。



ウンコやサプリの効果は眉唾でも、「思い込み」の効果はかなり信ぴょう性がある。

つまり「このサプリを飲めばギンギン」と思い込めば本当にそうなったりするし、その思い込みは高いサプリを使えば使うほど強くなる。

結果「高いサプリは効く」ということにもなるのだ。


太陽の光が健康やメンタルに良い、というのもどこまで本当かはわからない。

本当に日光を浴びただけで健康になれるなら、立ったまま死んでいるとしか思えない、武蔵坊弁慶から覇気を奪いつくしたような顔をしている駐車場警備員など、存在しないはずである。


しかしそれは、彼らが「日光浴びて健康になるぞい!」という心構えで日光を浴びていないからであり、それでは何時間浴びても無意味である。

逆に「ポリに職質されてまで朝日を浴びたんだから健康になれなきゃおかしい」と思い込めば10分でも効果があるのだ。


この「思い込み」は、老をなかなか死ななくしたりと良い効果をもたらすことも多いが、逆に悪い作用を起こすことがある。


「今飲んだのはウンコではなく毒です」と聞いてそう思い込んでしまうと、本当に死んでしまったりするのだ。


そしてひきこもりというのはこの「思い込み」が強くなりがちである。


何せ人と接しないため、他人の意見を聞く機会に乏しいし、思い込みを指摘してくれる人もいないのだ。

「日中出歩くと不審者と思われるから出れない」というのも、おそらく思い込みである。むしろそうであってほしい。

ひきこもりが長引くほど、思い込みも強くなり、さらに外に出られなくなるということも多いのだ。


しかし、前述の通り「思い込み」が良い効果を出す時だってある。

どうせ思い込みが強いなら、それを逆に利用してひきこもることで健康にもなれるのではないか。


よってこれからは「今時紫外線を浴びにいくなんて余計健康に悪い、それよりも一日中自室のLEDの真下にいる自分の方が健康に決まっている」と思い込み、より一層ひきこもりながら健康になっていこうと思う。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

★次回更新は7月2日(金)です。
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