巻ノ一 異形の人 (二)

文字数 7,597文字

宮本武蔵、有馬喜兵衛、塚原卜伝、関口柔心、陳元贇、柳生十兵衛三厳、宍戸梅軒――

人間を捨てた外道たちが、最強の覇者を決める勝ち抜き戦でしのぎを削る!

「小説現代」の人気連載、夢枕獏さんの「真伝・寛永御前試合」が待望の再開!

最強の漢はだれか――ぜひご一読ください!


イラスト:遠藤拓人

巻ノ一 異形の人

(二)


 昼過ぎ──

 その男は、降り注ぐ蟬の声と重い陽差しを両肩にのせたまま、門をくぐってきた。

 すらりとした長身の男で、眉凜々しく、鼻筋が通っている。

 色白で、歳の頃なら二十代の半ばといったところであろうか。

 穿いている野袴も、よく眺めれば旅の埃が染み込んでいるのだが、そう見えないのは、男の歩き方が涼やかで、背筋もしっかりと伸びているからであろう。

 竹刀の打ち合う音が聞こえているのは、この暑い中で、すでに昼からの稽古が始まっているからだ。

 男が訪いを告げると、出てきたのは、速水慎吾という道場生であった。

「瀬川一之進と申します」

 まず、男は名のった。

 速水は自らの名を同様に口にしてから、

「何か?」

 そう訊ねた。

「お稽古中おそれいりまするが、こちらの門下生に、荒木又右衛門という方がおられるとうかがっております」

「確かにそういう名の者はおりますが……」

 速水は、突然に、紹介状もなくやってきたこの男──瀬川一之進に、いぶかしげな視線を送りながら言った。

「ぜひ、お眼にかかりたいのですが──」

「御用件は?」

「会ってから、本人に伝えます」

「お知りあいか?」

「いいえ、初めてお眼にかかります」

 涼しげにそう言った瀬川の顔を、うかがうようにひとしきり眺めてから、

「わかりました。本人に伝えましょう」

 速水は奥へ引っ込んだ。

 ほどなく、速水がもどってきた。

 そのすぐ後ろに、又右衛門が続いている。

 又右衛門は稽古着を身につけていた。

「こちらが瀬川殿じゃ」

 速水が言うと、又右衛門が、前に出てきて速水と並んだ。

「荒木又右衛門にござる」

 又右衛門は、瀬川を見つめながら、頭を小さく下げた。

 しゃべった時に、上下の前歯が二本ずつ、四本ない口の中が覗き、そこに四角い穴があいているのが見えた。

 四日前、十兵衛に折られたのだ。

 伏せたのは顔だけで、視線は、まだ、瀬川に残したままだ。

「瀬川一之進と申しまするが、この名に覚えはござりまするか──」

 瀬川が問うた。

「はて?」

「四年前、小坂井村で、あなたさまに斬られて死んだ瀬川文之進が、わたしの父にござります」

「おう、あの時の……」

 又右衛門はうなずいたが、表情は少しも変えていない。

「なるほど、文之進というのか、あの男──」

 又右衛門が、姓のみでその名を知らないのは、瀬川文之進が名を口にする前に斬ってしまったからだ。

 しかし、どうして、自分がここにいることがわかったのか──

 あれは、他藩にも知られた有名な事件であった。当然、藩の者なら誰でも、斬った人間が誰で、斬られた人間が誰であるかということもわかっている。噂をたどれば、自分が藩を出て伊賀にもどり、そこからこの柳生庄にやってきたことはわかる。

「御用のむきは?」

「真剣にて、わたしと立ち合っていただきたい」

 一之進は、真っすぐな視線を又右衛門に向けた。

「文之進殿の仇討ということか」

「いいえ」

「違うのか」

「わたしは浪人の身でありますれば──」

 一之進は、それだけを口にした。

「そうか」

 又右衛門は、うなずいた。

〝浪人〟

 それだけで、この時代の武士には理解できる。

 この当時、仇討というのは、許可制であった。

 基本的なことで言えば、誰かが誰かの仇を討ちたいと思った時、まず、自分が所属する藩に、その旨を届け出ねばならない。そして、藩がよろしいと判断をしたら、あらためて藩から幕府に仇討願いを出し、幕府から仇討を許可する旨の書状をもらわねば、仇討はできないのである。さらに書いておけば、願い出れば、すぐにそれが許可されるわけではない。

 何故、仇を討ちたいのか、藩と幕府で、それぞれ吟味されることになる。

 まず、いくら憎い相手であれ、正当な理由があれ、仇を討っていいのは、殺された人間が父であるとか、主君であるとか、兄であるとか、儒教思想において、自分より目上の人間である必要があるのである。具体的には、父の仇は討てるが、父が息子の仇を討つことはできないのである。

 そして、もうひとつ付け加えておけば、仇討の負の連鎖がおきないように法で定められている。誰かが誰かの仇を討った場合、討たれて死んだ者の身内が、さらにまた仇を討ち返すということは、許可されないのである。永遠に殺し合いが続けられることを防ぐためだ。

 特に浪人の場合は、その許可をもらうにはさらに煩雑な手続きが必要となり、現実的には許可がおりないと考えてよい。

 これは、武士のほとんどが心得ていることであり、それ故、一之進は、仇討かと問われてそれを否定し、自分が浪人であることを又右衛門に告げたのである。

 これは、仇討と言わずに、立ち合い、あるいは果し合いと言うしかない。果し合いならば、たとえ真剣であっても、仇討のように一方的なものではないからだ。仇討だと、たとえ相手がいやがっても仕掛けてゆけばよいのだが、果し合いとなれば、相手の承諾がいる。相手が望まなければ、果し合いは成立しない。

 だが、それにしても、ただ一人で柳生庄にのり込んで、柳生の門下生のひとりに果し合いや立ち合いを申し込むというのは、それなりの覚悟と胆力が必要になる。それに加えて、よほど腕に覚えがあるのであろう。

 ことによったら、何人か、真剣の勝負で、人を斬り殺しているのかもしれない落ち着きがあった。

 なお、想像するならば、尋常の立ち合いで又右衛門を斬って勝利したとあれば、どこかの藩に仕官できるようなあてがあるのかもしれなかった。

 ともあれ──

 一之進の申し出を耳にした速水の顔には、あからさまに、やっかいなことになった、そういう表情が浮かんでいる。

「又右衛門、断れ。追い返すのは我らがやる──」

 速水が言った。

 当然ながら、四年前の事件のことは、柳生庄にいる者は、多くが知っていることだ。

 道場生のひとりが、又右衛門の噂を耳にしていれば、それを仲間に話し、そういう話はあっという間に、道場生全員に伝わることになる。

 瀬川文之進が悪い。

 又右衛門は、主命で、文之進を斬っただけだ。ただ、その斬り方に問題があったと言えば、あった。しかし、それによって、又右衛門が咎めを受けたり、糾弾されたりする筋のことではない。

 だが、断れと言いながら、速水の眼は、好奇の色でぎらついていた。

 その時──

「どうするのじゃ」

 そう言う声が響いた。

 又右衛門が声の方に視線を向けると、十兵衛が、立木の一本に背をあずけ、腕を組んでこちらを見つめていた。

 口元に、笑みが浮いている。

「そこの若いのは、なかなかできるぜ。肚ができている」

 十兵衛が、挑発的な言い方をした。

 十兵衛は、〝若いの〟と口にしたが、まだ二十一歳である十兵衛の方が、瀬川一之進より若い。

「断ってもかまいませんよ……」

 一之進が微笑しながら言った。

「誘いにのらぬでよい。たれも、おまえが、この若いのをおそれて立ち合わなかったなどとは、口にせぬ」

 これもまた、刺激的な言葉を速水は口にした。

 聞きようによっては、又右衛門が黙しているのは、一之進をおそれているからだと言っているのも同じだったからだ。

「よろしい、やりましょう」

 又右衛門は言った。

 しかし、その眼が見つめていたのは、速水でもなく、一之進でもなかった。

 又右衛門が見ていたのは、十兵衛であった。

「では、これから試合いますか──」

 又右衛門は、表情の乏しい顔を、一之進に向けた。

「いつでも」

 答えて、一之進は、半歩退がった。

 いつでも、と口にした以上、この場でいきなり又右衛門がつかみかかってきても大丈夫な距離を作ったのである。

 もとより、又右衛門は、丸腰であるが、ふいに襲いかかられたら剣を抜く間もない。

「しばしお待ちを──」

 丁寧すぎるほど、又右衛門は頭を下げ、奥へ姿を消した。

 通常の足どりであった。

 普通、こういう場合、立ち合うにしても、その日その場でということは、まず、ない。それは、立ち合いを申し込む方は、それなりに心と身体の準備ができているからだ。

 受ける方は、身体はもちろん、心も、覚悟もできていない。その場で立ち合うのは、圧倒的に不利になる。

 通常は、受けるにしても、日をあらため、別の日、ほどよき場所を話しあって決めることになる。

 それを、又右衛門は、あっさりと受けた。

 真剣というのは、命のやりとりをするということだ。勝っても、傷を負い、その傷を一生背負うことになるのがほとんどである。

 これには、さすがに、速水も、

「よいのか」

 又右衛門の背に声をかけた。

 しかし、又右衛門は無言で、姿を消した。

 しばらく時をかけて、又右衛門は、もどってきた。

 稽古着のままだ。

 さっきと違っているのは、腰に刀を一本差していることである。

 この時には、何やら異変を嗅ぎつけてやってきた道場生たちが、その場に集まっていた。

「おう」

「又右衛門が来たぞ」

「おう」

 声に出す道場生たちをふたつに分けて、又右衛門は素足のまま外へ出て、一之進の前に立った。

「お待たせした」

 又右衛門が、深ぶかと頭を下げた。

「どうということはありません」

 一之進が頭を下げないのは、父の文之進が、どうやって又右衛門に斬られて死んだのか、噂を耳にして、よく理解していたからであろう。

「試合うとなれば、立ち会い人が必要でしょう」

 又右衛門が言うと、

「うむ」

 と、一之進がうなずく。

「では、そちらにおられる十兵衛さまに、その役をお願いいたしたく思いまするが……」

「かまわんよ」

 腕を組んだまま、十兵衛はうなずいた。

「これは私闘故、お屋敷の庭を血で汚すわけにもゆきませぬ故、外で試合おうと存ずるが、いかに──」

 又右衛門が言うと、

「承知」

 一之進が答える。

「では、門の外へ」

 又右衛門は言って、一之進をうながした。

 しかし、一之進は、先に歩き出そうとはしなかった。

 これも、又右衛門には背を向けるわけにはいかないからだ。

「お先に」

 又右衛門は、そう言って、逆に先になって歩き出した。

 無防備の四角い背を、広びろと一之進に向けている。

 その背が、いつでも斬りかかってよいぞと言っているようである。しかし、だからと言って、一之進は、ここで斬りかかったりはしなかった。もしも、ここで後ろから又右衛門を斬り殺してしまったら、柳生の門下生たちが黙っているわけもない。そんなことをしたら、門下生たちに、よってたかって、膾にされてしまう。

 一之進が、又右衛門と闘って生きて帰る方法はただひとつしかない。それは、皆の前で、正々堂々と又右衛門と斬り結び、勝つことである。

 その自信があるということなのであろう。

 外へ出た。

 一之進も門をくぐったところで、又右衛門は足を止めた。

 後方を振り向き、

「門前というわけにもいかぬであろうから、あちらへ──」

 そのまま、右手へ、土塀に沿って歩き出した。

 その後方に、一之進が続き、十兵衛が無言で歩いてゆく。

 さらにその後ろから、二十人近い門下生の集団が付いてゆく。

 土塀の端まで歩いてゆき、又右衛門は、さらに右手へ折れた。

 門は南面しているので、屋敷の西へ出たことになる。

 そこには、ほどのよい空地があり、すぐ向こうに、大きな桜の老樹があった。

 その根が、四方に大きく張り出している。

 又右衛門は、再び足を止め、後方へ向きなおった。

 すでに、足を止めていた一之進と向きあった。

 まだ、間合ではない距離だ。

 刀を抜きあっても、一歩半ほど、間合が遠い。むろん、一之進は、そういう距離を選んで足を止めたのだ。

「ここでいかがか──」

 又右衛門が言う。

「いいでしょう」

 すらり、

 と、一之進が刀を抜いて、青眼に構えた。

「では──」

 又右衛門も刀を抜き、青眼に構えた。

 相青眼。

 いずれも動かない。

 又右衛門は、岩のようである。

 一之進は、身体にどのような力も入っていないように見える。しなやかな柳の枝が、たまたま風がないため、動かない、そんなふうに見える。しかし、隙がない。

 十兵衛が、ほどよい距離の場所に立って、

「やれ」

 無造作に言った。

 その瞬間、静止していた風が、いきなり吹きはじめたように、一之進の身体が、ふわり、と前に出た。

 刃先と刃先が触れ合い、しゃりん、と静かな音をたてた。

 一之進の刃は、又右衛門の刀の切先の右側に触れ、それがいきなり、ちょん、と軽く下に斬り下げられた。

 又右衛門の右手の甲に、一之進の刃先が、つ、と触れていった。

 又右衛門の、手首をねらってきたのである。

「あっ」

 という小さな声が、果し合いを見つめていた道場生の間に、いくつか洩れた。

 又右衛門の手首が、一瞬切り落とされたかと、多少剣のことがわかる道場生には、そう見えた。

 そう見た数人が、声をあげたのだ。

 しかし、又右衛門の右手の甲には、赤い筋が走っただけであった。

 それですんだのは、むろん、又右衛門が、一之進の攻撃を寸前でかわしたからである。

 しゃりん、

 ちゃりん、

 と剣がさらに二度触れあった。

 また、青眼で向きあった。

 又右衛門の右手の甲の赤い筋に、ふつふつと血の玉が浮き、それが流れて地に落ちはじめている。

 もしも、手首でなくとも、中手骨を切断されていたら、又右衛門は、もう剣を握ることができなくなっていただろう。

 だが、又右衛門は、まだ剣を握っている。

 それを見守る道場生たちには、驚きの表情が浮かんでいる。

 道場生の誰もが、又右衛門の剣の実力を知っている。

 又右衛門は、型稽古の時はともかく、いざ打ち合いになると、滅法強いということが、皆わかっているからだ。

 三本やれば、三本とも、又右衛門にとられてしまう。

 型で覚えた技を、又右衛門は、めったに使わない。

 相手が打ち込んでくると、それを受ける。

 ひとつ、ふたつと受けて、三つ目、四つ目で仕掛けてくる。

 それで、打たれてしまうのだ。

 竹刀が飛んでくる角度、方向に決まりがない。

 思いもかけぬところから、竹刀を打ち込まれてしまうのである。そして、たまらなく痛い。手を抜かない。自分より劣る相手でも、手を抜くということをしない。少しでも隙があると、全力でそこへ打ち込んでくるのである。打たれて骨を折った者もひとりやふたりではない。

 融通がきかない。

 だから、多くの者が、又右衛門とは手合わせをしなくなってしまった。

 型稽古以外では、又右衛門は、独りで、丸太や、藁人形相手に、竹刀を打ち込むことが多くなった。

 その又右衛門が、先に傷をつけられた。

 一之進、おそろしく強い。

 やわやわとした動きであるのに、足捌きで、自然に又右衛門を追い込んでゆく。

 キン、

 チン、

 と刃がぶつかり、

 ぎゃりん、

 と刃と刃が嚙みつきあう。

 いつの間にか、又右衛門が退がってゆく。

 退がってゆくその背の方向に、あの桜の老樹がある。

 自然にそうなったのではない。

 一之進が、又右衛門を追いつめて、わざと桜を背にさせて、それ以上退がれないようにしようとしているのだ。

 きいん、

 きいん、

 と、金属音が二度あがり、

「むわっ」

 又右衛門の体勢が崩れた。

 後方にあった、張り出した桜の根に、退がろうとした足を引っかけたのだ。

 そこへ、一之進が刀を疾らせてきた。

 きゃあん、

 犬のような声をあげて、又右衛門の刀がはじき飛ばされた。

 剣がくるくると光を浴びながら宙を舞ってゆく。

 又右衛門は、そこへ、尻もちをついていた。

 右手を後方へつき、左手を前に出し、

「ま、待て」

 又右衛門が言った。

 しかし、一之進は待たない。

 剣を大きく振りかぶり、

「きええっ」

 はじめて声をあげ、その剣を打ち下ろしてきた。

 しかし、その剣の軌動が変化して、横へ流れた。

 一之進の身体が、大きく横に傾いていた。

 又右衛門が、右手に、抜き身の小刀を握っていた。

 いったい、いつ、その小刀を手にしたのか。

 又右衛門が、その小刀を横に薙いで、前に踏み出していた一之進の、右脚の脛の骨を、半分以上、

 こつん、

 と断ち割っていたのである。

「ううぬ!?」

 自分の身体を支えられなくなって、一之進が尻を落としてゆく。

 その尻の下へ、右手を伸ばして、又右衛門が小刀を立てた。

 柄頭を地にあて、切先を上に向けている。

 その上へ、一之進が尻を落とした。

 ずごっ、

 小刀の刃が、全部、一之進の肛門から体の中へ潜り込んでいた。

 刃渡り、一尺四寸。

 一之進の尻は、鍔のところで止まった。

「おぎゃあああっ!!」

 一之進の身体が、右に横倒しになった。

「むげげげっ」

「ぐげげげっ」

 一之進が、そこでのたうちまわる。

 動くたびに、小刀の刃がはらわたをかきまわした。

 ほどなく、一之進は動かなくなった。

 白眼をむいて、悶絶死していたのである。

 むくり、むくりと、又右衛門が起きあがってきた。

 駆け寄ってきた速水が、一之進の死体と又右衛門を交互に見つめ、

「お、おまえ、あの小刀は──」

 そう問うた。

「さっき、刀をとりに行った時、少し時間がかかったのは、その木の根の陰に、抜き身の小刀を隠していたからじゃ……」

「で、では、おまえ、さっきこの桜のところまで退がったのは、わざと──」

「あたりまえではありませんか」

 又右衛門は、平然として、そう言い放った。

 可愛くない。

「おまえの勝ちじゃ、又右衛門」

 十兵衛が、言った。

「柳生の極意です」

 又右衛門はそう言って十兵衛を見た。

「免許皆伝」

 十兵衛は、満面の笑みを浮かべていた。

「もう、柳生から学ぶものはありません」

 又右衛門は、表情も変えずにそう言った。


(三)


 その日のうちに、又右衛門は荷をまとめ、伊賀へ帰っていった。

 まことに、まことに、可愛げのない漢であった。


(つづく)

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