『Day to Day』書評/ヨビノリたくみ

文字数 2,100文字

新型コロナウイルスが蔓延し、どんよりとした暗雲が世界中を覆っていた2020年春。

treeでは物語と出会える場として、何ができるかと必死に考え、「2020年4月1日以降の日本を舞台に、作家に1日ずつ掌編を書いていただく」という企画「Day to Day」をスタートさせました。

結果、100名の作家による100本の掌編が集まりました。

英語や中国語へも同時翻訳したことで、国境を超えて世界中で大きな話題となりました。

そんな「Day to Day」がいよいよ書籍になります。

わかりやすい解説で若者を中心に圧倒的な人気を誇る教育系YouTuberのヨビノリたくみさんに、あらためて『Day to Day』を語っていただきました。 


★3/25発売の書籍『Day to Day』はこちらから。

>通常版

>愛蔵版

ヨビノリたくみ


日本を代表する教育系YouTuberのひとり。YouTubeチャンネル『予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」』で主に大学の数学や物理の解説動画を配信している。

文部科学省などでの講演や、他の教育系YouTuberとの交流にも積極的に取り組んでいる。 

著書に『難しい数式はまったくわかりませんが、確率・統計を教えてください!』(SBクリエイティブ)などがある。

2020年4月、日本において新型コロナウィルスによる最初の緊急事態宣言が発令された。街中から人は消え、唯一人がいるデパートやスーパーでも、まるでこの世の終わりのような空気が立ち込めていた。今回の作品はそのような2020年4月以降の日本を舞台にした、人気作家100名による掌編小説である。当然100作品あるわけだが、その中のいくつかを紹介したいと思う。



[4月1日 辻村深月]


このような状況で嘘をつくのは”ふきんしん”だからという理由で「今年のエイプリルフールはなし」と言われた子供の話である。よく分からない理由で友達とも遊べず残念がるも、大人のただならぬ雰囲気をしっかりと感じとる子供がリアルに書かれている。


『冷たい校舎の時は止まる』や『名前探しの放課後』という作品の中でも感じていたことではあるが、辻村先生は子供の心理描写を書くのが抜群に上手い。確かに今思えば、子供の頃は何も分からないなりに色々なことを感じとっていたし、深いこともきっと色々と考えていた。しかし、普通自分が大人になったら子供のときの複雑な気持ちなど忘れてしまう。しかし、辻村先生は何らかの特殊能力(?)でそれを正確に表現できるに違いない。そんな辻村作品の魅力が短い話ながらもしっかりと感じとれる素敵な作品である。



[5月17日 芦沢央]


長い結婚生活の中で徐々にすれ違っていた夫婦が、自粛生活の中で久々にジグソーパズルという形で共同作業をするお話。


選ばれたジグソーパズルの柄はなんとよりにもよって「ウユニ塩湖」で、冒頭からクスッとしてしまう(パッとこない人は「ウユニ塩湖」と画像検索をしてみてほしい。想像を絶する難易度だ)。しかし、こんな入りでもこの作品を書いているのはなんといってもあの芦沢央である。『許されようとは思いません』や『火のないところに煙は』のように最後にはきっとドス黒いラストが待っているはずである。


と、思っていたら待ち受けていたのはまさかのホッコリ。芦沢先生、、、

こんなタイプの作品も書かれるんですね!とつい驚いてしまった。



[6月5日 真下みこと]


冒頭からいきなりZoomでビデオチャットをする二人の女子高校生の会話からはじまる何とも現代的な作品。ある女の子にとってのオンライン授業がもつ特別な意味が描かれており、長年講師業をしている私でも全く意識していなかった斬新な着眼点であった。


真下先生の作品はデビュー作の『#柚莉愛とかくれんぼ』でもそうであったが、現代を取り巻くネット社会が巧みに描かれている。本人の類稀なる才能と現役女子大生作家という若さがなせる芸当なのであろう。



文字数の関係で3つの作品しか紹介できなかったが、中には人気シリーズのスピンオフ的な作品もあり、読書ファンを大いに楽しませてくれる。また、「100名の作家の掌編小説」というこの形は、興味があったけどこれまで作品を読んだことのなかった作家さんや、今まで知らなかった作家さんの作品に触れる最高のチャンスでもあり、たとえ短い作品でもその中にその作家さんの魅力がギュっと詰まっている(個人的にもこのDay to Dayの連載で知った数名の作家さんにどハマりしてしまった)。しかしそれだけではない。例にあげた芦沢央先生の作品のように、掌編という特殊な形によって普段見れない一面が見れることがあるのも魅力の1つである。


昨今の世界を取り巻く危機的な状況が改善し、この本を「確かにあのときそんな日常があったな」と前に進める糧にできる日が少しでも早く来ますように。

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