第7回/松岡圭祐『小説家になって億を稼ごう』を読みました。

文字数 2,191文字

「オモコロ」所属の人気ライター【ダ・ヴィンチ・恐山】としての顔も持つ小説家の品田遊さんに、”最近読んで面白かった本”について語っていただくこの連載。


第7冊目は夢の印税生活! 人気小説家・松岡圭祐氏による赤裸々なサクセス指南書『小説家になって億をかせごう』を取り上げます。

私は一応、作家だ。これまでに計3冊の小説を出版した。しかし、大多数の作家がそうであるように、ベストセラー作家ではない。それ以前に、作家業だけで暮らしていけるような立場でもない。


最初の小説を出版したのが2015年で、3冊めを出したのが今年、2021年。2年に1冊のペースとなると、最低でも1冊あたり600万円の収入を生み出したいところだが、残念ながら現状ではそれほどの利益を生み出せてはいない。


私は普段、広告をつくる会社で働いている。小説はどちらかといえば「副業」扱いだ。収入という面では会社員としてのサラリーによる部分がかなり大きい。一生に一度でいいから「ベストセラー」と呼べるような売れ行きを経験してみたいものだ。


そう思っていたところ、こんな本の存在を知った。『小説家になって億を稼ごう』(松岡圭祐)である。


なんて景気のよいタイトルだろうか。「億を稼ごう」と言われたら「はい」と答えるしかないではないか。著者は小説家の松岡圭祐氏。『万能鑑定士Qの事件簿』シリーズや『探偵の探偵』で知られる人気作家だ。

「はじめに」には、こう書かれている。


「売り上げ上位の小説家は億単位の年収を稼ぎます。氷山の一角と囁かれますが、それはどの業種でも同じではないでしょうか。現実に小説家の富豪は大勢います。」


「本書でご紹介するのは、小説家で「食べていく」のではなく「儲けて富を得る」方法です。」


小説を書く者としては、いや、小説など書いたことのない人でも、非常に気になる話ではないだろうか。小説を書いて利益を得る。それも日銭程度の額を稼ぐのではなく、富と呼べるほどのものを得る方法があるなら、ぜひ知って実践したいものだ。


他にも著者の力強い言葉が並び、読者を鼓舞する。なんと自らが年収1億円を超えた年の確定申告書のコピーまで添付されている。出版不況が囁かれ、社会全体がなんとなく暗鬱とした雰囲気に包まれている現代において、この本はどこまでもポジティブで前向きである。小説は儲かる。そしてあなたにも面白い小説が書ける。ならば書けば儲かるのである。億を稼ごう。


これがなんの実績もない作者による言葉だったらただの美辞麗句として本を閉じていたかもしれない。しかし現役の人気作家が確定申告書のコピーまで貼り付けてそう言うのだから、もう黙ってうなずくしかないのである。

 

この本は2部構成で、小説家になって億を稼ぐためのコツを2つのステップに分けて解説してくれる。


Ⅰ部 小説家になろう


Ⅱ部 億を稼ごう


実にシンプルな話だ。まず小説家になって、それから億を稼げばいいのだから。


小説家の書いた人気作家への道のりの指南書というと「面白い小説の書き方」のレクチャーをイメージするかもしれない。本書でも「想造」と名付けられた創作法が解説されていて、非常に合理的かつ独創的なテクニックで面白い。だがその解説は全体においてほんの一部分にすぎない。小説の「書き方」について書かれているのは全体の3割程度で、残りは自作の「売り方」が具体的に書かれている。


ベストセラー作家はただ面白い小説を書いているだけではない。それは商業活動における商品の製造工程であって、そのあとには販路の確保、出荷、宣伝、アフターケアなどの仕事が待っている。それらを含めて「作家」という仕事なのだ。本書では作家として富を得るためのノウハウが恐ろしいほど具体的に記されている。完成した作品を編集者に読んでもらうためにとるべき戦略、出版契約書の取り交わし方、確定申告の方法、編集者との付き合い方、2作目でヒットを出すための心構え、メディアミックスの依頼が来たときの注意点……などなど。果ては小説で築き上げた莫大な遺産を相続するときのコツまで書かれている。


読んでいるうち、自分がベストセラーを出すのは当たり前なのだという気分になってくる。どのエピソードも実体験に基づいているぶんリアリティがあり、机上の空論を聞かされているような感じがしないのだ。気づけば「そうかあ、年収が1億を超えると税務署のチェックが細かくなるのかあ、気をつけないとなあ」などと考えている自分がいるはずだ。


本書を参考にすれば億を稼ぐ作家になれるのか。それはわからない。だが体験談であるという事実が夢物語に質感を与え、ハウツー本としては異質なスペクタクルに満ちた本となっていることは間違いない。


つまり、これは一種の「VR・人気作家シミュレーター」なのだ。特に小説家を目指していない人でも楽しめるだろう。


では私も、そろそろ稼いでみようと思う。億を。

書き手:品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山)

小説家・ライター。株式会社バーグハンバーグバーグ社員。代表作に『名称未設定ファイル』(キノブックス)、『止まりだしたら走らない』(リトルモア)など。

【Twitter】@d_v_osorezan@d_d_osorezan@shinadayu

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