「私は短編が好きだ」 山田正紀

文字数 943文字

(*小説宝石2021年10月号掲載)
2021/09/30 11:42

編を書くのが好きだ。


 なぜなら、すぐに書き終わるから、と人に言い、エッセイにも書いたが、そしてそれは必ずしも嘘ではないのだが、書きおわったとき、まれに自分でもこれはまずまずの出来ではなかろうか、という手ごたえを得ることがある―総じて自信に欠ける私としては、これはじつにめずらしい感触であって、そのことがあるから短編を書くのはやめられない、好きだ、という気持ちにもなるのであろう。


 今回の『開城賭博』は、最初、宮内悠介さんの「博奕のアンソロジー」に書かせていただいた短編をとっかかりにし、何本か、書かせていただいたものを―書き下ろしの中編一本を加えて―一冊にした。


 べつだん、そんな注文があったわけではないのだが、最初に書いた「開城賭博」が幕末を舞台にした短編ということもあって、それ以外のものも―濃淡こそあるものの―歴史に材を取った作品になっている。それなりに作品のバラエティにも意をつくしたつもりであり、まずは楽しんでいただける内容になっているのではないか、と自惚れている。


 これら以外にも、歴史に材を取った短編の腹案は何本かあるし、それ以外にもミステリー短編、SF短編もそれぞれに一冊分ぐらいのストックはある。そのほかにも、これはどういうジャンルに入れればいいのかわからない―強いて言えば「奇妙な味」ということになるのだろうか―短編の腹案も何作かある。いつか書きたい、書ければいいな、と思っている。


 これはもちろん売り込みのつもりであり、もういい歳なのだから、こんなことを臆面もなしに書くのは、はしたない、という思いもあるにはあるのだが、どうしてか短編にかぎっては、あまり恥ずかしいという気がしない―これが要するに、短編が好き、ということなのだろう、と思う。

2021/09/30 11:43
2021/09/30 11:44

【あらすじ】

饒舌に過去語りをするが、本当かどうか判然としない勝海舟。旅順特務機関の作戦における不在証明を偽装した満鉄の測量技師。戦時中、呉で「張込み」と「舞姫」が混ざったような案件にかかわった防諜専門員―。浪漫溢れる奇想史劇六編収録の傑作集!


【PROFILE】

1950年、愛知県生まれ。SF、本格ミステリを中心に、冒険小説、時代小説など、多彩な作品を手がける。近著は『フェイス・ゼロ』。

2021/09/30 11:45

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色