「耳から楽しむ城塚翡翠」 古賀 葵×相沢沙呼 対談が実現!

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ミステリーランキング5冠を達成! 10月16日(日)よる10:30から主演・清原果耶さんでドラマがスタートする相沢沙呼さんの『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』

オーディオブックにて主役の城塚翡翠役を演じた声優の古賀葵さんと相沢さんの対談がこの度実現! 原作とはまた一味違った城塚翡翠やオーディオブックの魅力に迫ります!


ヘア&メイク:松井祥子[addmixB.G] 撮影:森 清 

城塚翡翠との出会い


──本日は相沢沙呼さんたってのご希望もあり、『medium 霊媒探偵城塚翡翠』および『invert 城塚翡翠倒叙集』のオーディオブックにて、主人公・城塚翡翠役を演じられた声優の古賀葵さんと対談企画を組ませていただきました。相沢さんはどのようなところに、古賀さんの魅力を感じたのでしょうか。


相沢沙呼(以下、相沢) オーディオブックを聴いて、まずその演技に圧倒されました。聴いている間は、オーディオブックの世界観にどっぷり入り込んでしまいます。この小説は構成が複雑ですし、城塚翡翠も難しい役だと思いますので、演じるにあたって考えていたことや、声のお仕事についてなど、伺いたいことがたくさんありました。いつかゆっくりお話ししたい! と思っていたので、ようやくその機会をいただけて嬉しいです。


古賀葵(以下、古賀) 城塚翡翠という役をどのように表現できるか探りながら演じていたので、先生にお褒めいただきとても光栄です。収録に原作の先生が立ち会ってくださる機会はなかなかないので、直接教えていただいたこともたくさんありました。様々な面で助けていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。


相沢 オーディオブックとして、城塚翡翠役を依頼されたときは、どのような役として説明を受けたのでしょうか。


古賀 最初にお話をいただいたときは「城塚翡翠」という役名を伺っただけで、そこから小説を読み始めました。これまでミステリ小説にはあまり触れてこなかったので、最初は理解できるのだろうか、と心配になりながらページをめくっていたのですが、いつの間にかその不安がなくなるぐらい、とても夢中で読み進めてしまって、何も聞こえなくなるぐらい集中していました。読んでいると脳裏に映像が自然に浮かんできて、物語の世界に自分も連れていかれるような感覚でしたね。「すべてが、伏線。」という帯の言葉通り、「ああ、ここでこうなるの!」と心の中で叫んだりして、先生の掌の上で踊らされました(笑)。


相沢 それは嬉しいです。作品を読んでいるときは、ご自身が演じることを常に考えながら読まれていたんですか?


古賀 あまりに面白かったので、読んでいるときは演技のことをすっかり忘れて、作品を純粋に楽しみました。読み終わった後は、ふと我に返って「この翡翠ちゃんを私に演じられるだろうか」と不安にもなりましたが(笑)。

声のお仕事の魅力とこれから


──普段の古賀さんは、メインとなるのはアニメ関連のお仕事だと思いますが、絵や音、動きがあるアニメと違って、オーディオブックは基本的に声だけで表現されるものですよね。いつもとは違うところや、難しいところはあるのでしょうか?


古賀 アニメの場合は、演じるキャラクターのビジュアルがあり、場面転換や雰囲気等に関する指示も多いので、視聴者へのわかりやすさ、伝わりやすさはあります。一方でオーディオブックでは、ある程度、自分の裁量でできるのがいいところですね。テキストを辿りながら頭の中で映像を好きに浮かべたり、表情や場所をイメージしたり、細かなところまで自分の想像を広げて演じられるのは魅力的です。

 また、アニメでは、どうしても放送時間の枠に一話を収めるという大きな制限がありますが、オーディオブックの場合はその制限がないので、セリフに間を持たせて意味深な雰囲気を醸し出したりできるのも楽しいところです。さらには、声しか情報がないからこそ、聴いてくださる方にも、自由に場面や表情を考えていただけるというのが、やはり一番の醍醐味でしょうか。


──受け手の想像力に委ねられる部分は、ドラマやアニメなどのリッチな映像があるものよりも大きいのかもしれませんね。小説も、文字だけで読者に想像してもらうわけですから、実は小説とオーディオブックは、ユーザーに与える影響が似ている媒体なのかもしれません。


相沢 『invert』の収録に立ち会わせていただいたとき、ディレクターの指示を受けなくても、セリフに抑揚があったり、魅せるべきところを意識されていたり、古賀さんの頭の中の演技のプランが伝わってきて感動しました。収録する前、台本は入念にチェックされているのでしょうか。


古賀 このセリフがヒントになりそうだと感じたところは、上手く演じられるように台本に書き込んでいます。


相沢 やはりそうでしたか。『invert』では、倒叙ミステリという形式上、犯人の視点で物語が語られるため、翡翠の心情は見えないように描いてあるので、テキストからは読み取れません。ですから、心情に沿った演技自体がとても難しいと思うんです。ですが、細かい指示がなくとも、キャラクターに寄り添って自然に演じられているので、小説を読み込んでくれているんだと嬉しかったです。


古賀 それは……小説が面白いから、つい深く読みたくなるんですよ!


相沢 ありがとうございます(笑)。オーディオブックはアニメの収録と比べるとセリフ量が膨大ですよね。やはり、アニメよりも負担は大きいのでしょうか。


古賀 会話・セリフだけではなく、地の文がありますからね。アニメでセリフの多いキャラよりも、圧倒的に喋る文字数は多いと思います。ただ翡翠ちゃんを演じられるのは楽しいお仕事でしたし、自分のイメージを地の文にも乗せて伝えられるところもありますから、大変さよりもやりがいの方が大きかったです。


相沢 嬉しい限りです。『invert』も毎回3時間ほどの収録が複数日にわたっていましたが、スケジュールがタイトなときは休憩もほとんどなかったですよね。それでも、古賀さんの声が瑞々しいままなので、プロのすごさに改めて感動しました。翡翠は探偵役であるがゆえに、すさまじい長ゼリフを一気にまくしたてなきゃいけないシーンも多いのでなおさら大変だったと思います。


古賀 長いセリフは区切って録ることもできますが、一度つまずいちゃうと気持ちが上手くセリフに乗らないこともありますから、「最初からもう一度いいですか?」となることもしばしばでしたね。


相沢 そのこだわりが、あの素晴らしい完成度のオーディオブックになっているのだと思います。


──オーディオブックとも近しいものですが、最近流行りの朗読や朗読劇については、どのように思われていますか?


相沢 オーディオブックや通常の朗読の弱点は、声優さんの演技が素晴らしすぎるがゆえに、地の文が、余計な情報になってしまうことでしょうか。例えばですが、声優さんがせっかく怒りの感情をこめて喋ったセリフの直後に「~と、彼は怒鳴った」のような地の文が入ってしまうと、冷めてしまいますし、もっとテンポ良く聴きたいと思う人もいるんじゃないでしょうか。今後、オーディオブックをさらに発展させていくとしたら、演技で伝わるような情報を編集でカットしていった方が、全体の尺も短くなるし、声優さんの演技も際立ってよりうまく伝えられるんじゃないかなと思います。


──そのあたりがブラッシュアップされることで、メディアとしてさらに新しいものになるかもしれませんね。


相沢 群読に近い朗読劇はそのあたりが非常に洗練されていますよね。声優の神谷浩史さんたちとご一緒した、2019年に僕がシナリオを担当したリーディングライブ(朗読劇)『密室の中の亡霊 幻視探偵』は非常に勉強になりました。古賀さんも出演された『朗読劇 アルセーヌ・ルパン#1 「813」』も素晴らしかったです。


古賀 聴いてくださったんですね、ありがとうございます。

城塚翡翠という難しい役柄


相沢 収録に臨む前に、翡翠のキャラクターについては何か考えられましたか?


古賀 演じる上で、キャラクター性はすごく難しい問題でしたが、同時にすごく魅力的でもありました。翡翠ちゃんが仕事としている、霊媒というものを研究するために、一時期YouTubeで霊媒師の方の動画をたくさん観たりしていましたね(笑)。


相沢 えっ、そんなことまで!? 役作りのために、そこまで調べてくださったんですね。


古賀 霊媒師というお仕事自体よくわかっていなかったので、一般的なイメージを摑みたいと思ったんです。その後で、私の中の翡翠ちゃんのイメージや小説の情景を擦り合わせていきました。


──この物語は、様々な伏線が張り巡らされており、進むうちに驚きの展開がたくさん用意されています。そういった意味で翡翠自身も演じることが難しい役柄だと思います。声に一つだけではない意味を持たせる必要がありますよね。


古賀 翡翠ちゃんのような人物は今まで演じてきた役にはいないキャラクターですし、自分が翡翠ちゃんに似ているわけではないので、まずこういったタイプの人間の思考はどういう感じなんだろう、というところから勉強しました。


相沢 そして、翡翠自身を“降霊”してしまったと(笑)。


古賀 はい、まさに霊媒として(笑)。オーディオブックの収録は、基本的に声優一人ですし、コンパクトなスペースで収録することもあり、より作品世界に集中できたのも良かったです。だんだんと翡翠ちゃんや作品自体のイメージが深まってきて、実際に声を出して翡翠ちゃんを演じさせていただくときは、徐々に彼女が私に降りてきているという感覚がありました。


相沢 古賀さんは、可愛さとシリアスさ、という二極化した翡翠の魅力をとてもうまく演じわけてくださいました。その可愛さの幅がとても広かったのも印象的です。原作者は「このセリフは読者さんに可愛く伝わるように」と思いを込めて書いていますが、そういった意図をしていない普通のセリフの部分すらも、古賀さんはすごく可愛らしく読んでくださいました。声が入ると、文章では表現しきれないキャラクターの魅力を表せるんだと気付かされる箇所が随所にありました。


──相沢さんにとっては想像通りであって、想像以上だったのでしょうか?


相沢 まさにその通りですね。古賀さんの演じてくれたオーディオブックのおかげで、自分の中の翡翠のイメージや作品の世界がぐっと広がりました。赤羽根健治さんが演じてくださった香月史郎も素晴らしかったですし。作家は小説を書くときに映像が浮かぶ人が多いと思うのですが、僕の場合はその映像が、どちらかというと実写よりもアニメーションです。そしてそのときの翡翠の声は、今では完全に古賀さんの声で再生されています。新刊の『invertⅡ 覗き窓の死角』は古賀さんの演じる翡翠の声やキャラクターに強く影響されて書いたところも大きいんです。『invert』での田澤茉純さんが演じる真と翡翠の掛け合いパートがとても小気味よかったので、『invertⅡ』でも意図的に増やしました。


古賀 とても嬉しいです! 私たちの声が原作小説にも影響しているんですね!


相沢 それほどお二人の掛け合いが素晴らしくて、執筆時も翡翠と真のセリフがお二人の声で再生されるんです。キャラクターに命を吹き込んでくださって、本当にありがたく思っています。


古賀 こちらこそ、そのように言っていただいてとても光栄です!

キャラクターの源泉


古賀 相沢先生がキャラクターを生み出すとき、どのようなかたちで生まれてくるのでしょうか? 書きたい物語に合わせてキャラを作るのか、それとも、書きたいキャラに合わせて物語を作るんでしょうか。


相沢 ケースバイケースでもありますが、今回の「城塚翡翠」シリーズに関しては物語のイメージが先にあり、そこに徐々にキャラを肉付けしていきました。実は、『invert』のような倒叙形式の話を書きたいと最初は考えていたんですね。倒叙形式の作品の代表例というと、映像ではありますが『刑事コロンボ』『古畑任三郎』などの作品があります。犯人からしてみると、妙にグイグイきて、しかも何を考えているかわからない、ある意味ではウザいキャラクターです。そこからインスピレーションを受けて考えを膨らませていきました。さらに、倒叙形式の物語を書く前に、翡翠がどのようなキャラクターかを披露する物語から始めた方が面白いんじゃないか、と思いついたのが『medium』でした。作品もキャラクターも、どんどん変化していきます。先ほども言いましたが古賀さんの声からインスピレーションを受けることもありますから、常に翡翠が進化しているようにも感じます。


──オーディオブックの古賀さんの翡翠は、絶妙なバランスでキャラクターを成立させてくださっていて、編集部としてもただただ脱帽です。では、最後に「城塚翡翠」シリーズ、そしてオーディオブックをこれから体験しようとする方にメッセージをお願いします。


相沢 オーディオブックは原作を読んだことがある人にも聴いてほしいですね。「城塚翡翠ってこういう風に喋るのか」と、ぜひ皆さんの頭の中の翡翠とイメージを擦り合わせてみてほしい。新刊が出ますが、読んでくださるときに翡翠のセリフが古賀さんの声で再生されたら嬉しいなと思っています。


古賀 そう言っていただけて、演じた側としても光栄です。


相沢 小説だとどうしても集中して読む必要がありますが、オーディオブックのいいところは隙間時間で聴けるということですよね。他の作業をしながらでも、声優さんの演技によって感情や話の流れは自然と入ってきます。初めて経験する人は、あえて何か別のことをやっている時間にBGM代わりに聴いてみるのもアリだと思います。面白いと思ったら集中して聴いてみるのもいいですし、そこから原作の小説を読んでくれたらなお嬉しい(笑)。最近は「ながら作業」が流行る時代ですし、声しかないからこそ演技が際立ちますから、ぜひ一度聴いてみてください。


──ありがとうございます。古賀さんはいかがでしょうか。


古賀 先生がさきほど仰っていたように、耳で聴くものなので何かをしながらでも気軽に聴けますよね。そして、ぜひ原作小説も一緒に楽しんでほしいです。原作を先に読んでも、後から読んでも「二度美味しい」が必ずあります! 私は、先生の作品に出会ってからミステリ小説の面白さに目覚めて、新しい世界の扉を開けた感覚がしました。自分の可能性が広がるものだと思うので、ぜひ聴いて、読んでいただきたいです。

 原作小説が中心にあり、オーディオブックもあり、漫画連載も始まるんですよね。そして何より、今度の実写ドラマ化も、それぞれメディアごとに違った楽しみ方ができると思います。とにかく翡翠ちゃんに触れてみてください! そのためにも、先生、原作小説の続きを楽しみにしています。


──よくぞ言ってくださいました! オーディオブックや漫画、ドラマへの発展も、中心に原作があってこそです。対談が行われている本日の段階では、今月号に掲載されるはずの新作短編がまだ脱稿しておりません。ぜひ古賀さんからエールをお願いいたします(笑)。


古賀 ここまで様々な媒体に翡翠ちゃんの物語が広がっているのも、やはり原作が面白いからだと思います。色んなメディアで楽しめるようになるからこそ、読者の皆さんはこれまで以上に先生の原作の続きを楽しみに待っています。私もその一人です!


相沢 古賀さんに言われたら仕方ないですね、頑張って書きます(笑)。

(2022年8月26日 講談社にて)

※本インタビューは、「小説現代」2022年10月号にて掲載されました。

古賀 葵(こが・あおい)

佐賀県出身。2014年、声優デビュー。『アイカツスターズ!』の芦田有莉訳、『天使の3P!』の金城そら役、『つうあか』の宮田ゆり役などを経て、2019年に『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』の四宮かぐや役でTVアニメ初主演。同作の実写映画版にも出演。2020年に第14回声優アワード主演女優賞を受賞。相沢沙呼原作の「城塚翡翠」シリーズのオーディオブックにて、主人公の城塚翡翠を演じている。

相沢沙呼(あいざわ・さこ)

1983年埼玉県生まれ。2009年『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。繊細な筆致で、登場人物たちの心情を描き、ミステリ、青春小説、ライトノベルなど、ジャンルをまたいだ活躍を見せている。『小説の神様』(講談社タイガ)は、読書家たちの心を震わせる青春小説として絶大な支持を受け、実写映画化された。「城塚翡翠」シリーズ1作目の『medium 霊媒探偵城塚翡翠』は、第20回本格ミステリ大賞受賞、「このミステリーがすごい!」2020年版国内編 第1位、「本格ミステリ・ベスト10」2020年版国内ランキング 第1位、「2019年ベストブック」(Apple Books)2019ベストミステリー、2019年「SRの会ミステリーベスト10」第1位、の5冠を獲得した。

『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』

オーディオブック

https://pages.audiobook.jp/special/medium/index.html


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『invert 城塚翡翠倒叙集』

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大好評! 「城塚翡翠」シリーズ

すべてが、伏線。

死者が視える霊媒・城塚翡翠と、推理作家・香月史郎。心霊と論理を組み合わせ真実を導き出す二人は、世間を騒がす連続死体遺棄事件に立ち向かう。証拠を残さない連続殺人鬼に辿り着けるのはもはや翡翠の持つ超常の力だけ。だがその魔手は彼女へと迫り――。ミステリランキング5冠、最驚かつ最叫の傑作!

すべてが、反転。

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