大人びた高校生たちの魅力があふれる青春ミステリ

■栞を巡る事件に高校生が迫る

「あれは、切り札」

「切り札」という単語の心強さと言ったらない。そのカードを切らなくてもいい。ただ手元にあるだけで少し強くなれた気がする。「切り札」を持っていて、実際に使うという人はどれぐらいいるのだろうか。

米澤穂信の直木賞受賞後第一作となる『栞と嘘の季節』。25万部突破の『本と鍵の季節』の続編である。

高校で図書委員を務めている堀川次郎と松倉詩門。ある日の放課後、図書室に返却された本をチェックしていると、栞が挟まっていることに気がつく。小さな花を押し花にした栞は、一見何の変哲もないものに思えたが、問題はその花だった。花は猛毒のトリカブト。

危険性を感じた堀川と松倉は持ち主を探し始める。その捜索の中で、校舎裏でトリカブトが栽培されているのを見つけた２人。さらには、男性教師・横瀬がトリカブトによって倒れてしまう。その栞に一体どのような秘密があるのか。

栞は自分のものだと名乗り出た女子・瀬野と共に、堀川と松倉は栞の真実に迫っていく。

■謎に立ち向かうのは「令和」の高校生

青春ミステリとなる本作。

高校生たちが事件に立ち向かっていく、と言うと、どこか賑やかで明るいイメージがあるが、本作は真逆と言ってもいいかもしれない。クールで、全体的にまとう空気はしっとりとしている。はしゃぐと言ったこともなく、互いのことについても必要以上に踏み込まない。なんとなく、令和の高校生ってこんな感じなのかもしれない、と勝手に想像を膨らませてしまうが、どうなのだろう。

ただ、この空気をどこかで感じたことがある……と辿っていくとまさに学校の図書室の空気感だと分かり、納得した。

そして、高校生たちの謎解きの醍醐味のひとつと言えば、「制約があること」かもしれない。学校に行かなければならない、学校内のルールを守らなければならない、夜遅くまで出歩いてはならない……。堀川たちは、探偵を気取っているわけでもなく、ただ真面目な高校生なので、そういった点をしっかりと守る。それが事件の推理の障害になる場合もあるが、これもまた青春ミステリの楽しみ方のひとつなのだろう。

■「嘘」でミステリの前提がひっくり返る

一方で、彼らが直面している事件はシリアスだ。死者こそ出なかったものの、自分たちが目にしたトリカブトの花の栞が誰かを殺すことになってしまったとしたら？　そんなことを考えたら、おちおちと眠れなくなる。

責任感と同時に、自分たちが置かれている今の「まずい状況」から逃げ出さなければならない。その必死さが物語に緊迫感を与えている。

そして、更なる緊迫感を与える要素が、タイトルにもある「嘘」だ。事件の真相に迫るため、それぞれが証言を集め、調査から得た情報を共有し合う。しかし、彼ら――堀川、松岡、瀬野の間でも「嘘」があり、互いに信頼し合えているとは言い難い。「相手が言っていることは嘘かもしれない」と考え始めてしまったら解ける謎も解けなくなる。

松岡たちがつく嘘は、それぞれのポリシーがあるからこそのものなのだが、物語をより複雑化させていく。

ミステリ小説ではあるが、どこかミステリゲームの中に入り込んでしまったような面白さもある。ただ、背景にあるのは、高校生ならではの苦しみや自己顕示欲。読み終えたときには、甘酸っぱさと同時に、そこはかとない苦さも残るはずだ。

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