興奮した男が美女の生首に平手打ち! 群衆を魅了したギロチン台の美女。

文字数 1,610文字

「われは知る テロリストの かなしき心を」(石川啄木)。テロは民主主義にとっての脅威である。しかし、暗殺が歴史のうねりを加速させた例は数多い。そんな暗殺事件から世界の歴史を俯瞰する。(年齢は事件当時)

ギロチン処刑人も心奪われた美貌の「暗殺天使」

ジャン・ポール・マラー暗殺事件 1793年

浴槽から腕を垂らし、苦悶の表情を浮かべた男の死体――ジャック=ルイ・ダヴィッドによって描かれた名画「マラーの死」は誰もが目にしたことがあるだろう。これはダヴィッドが暗殺の現場で描いたものだ。


ジャン・ポール・マラー(50)はフランス革命のなかで、極端な革命を推し進めた「山岳派」の指導者の一人。新聞「人民の友」での暴力的な主張で市民を扇動し議会を制圧。ロベスピエールらとともに、多くの人を「反革命」の罪でギロチンにかけた。


そのマラーを暗殺したのが、シャルロット・コルデー(25)である。「暗殺の天使」とも呼ばれることになる彼女は、まだ10代に見えるような、あどけない美貌の持ち主だったという。


貧乏貴族の出身で、母の死をきっかけに13歳の時に修道院に入る。しかし、革命政府によって修道院は閉鎖。突然、社会に放り出された彼女は、次第に革命の熱狂に飲み込まれていく。


新聞や革命党派のパンフレットを読み漁り、演説会にも足繁く通う。そうして、熱心なジロンド派(共和主義、自由主義を掲げ、革命の一応の終息を目指す穏健左派政党)支持者となっていった。


いわば、彼女はフランス革命が生んだ「烈女」であったのだろう。

彼女は、市民を扇動しジロンド派を追い詰めているマラーを除かねば、さらに多くの人が死ぬことになると考え、暗殺を決意する。彼女は一人でパリに向かった


マラーの家を訪ねた彼女は、応対に出た人物に対して、密告者を装って、直接マラーに会って話しがしたいと頼むが拒まれ、玄関先での押し問答となった。


しかし、美しい女性の訪問を無碍にできる男は多くはない。騒ぎを聞いたマラーは、彼女を浴室に招き入れてしまった。マラーは、湿疹性の皮膚病が悪化していたため、一日中、オートミールをひたした湯に浸かって過ごしていた。


マラーの親切な態度と皮膚病に侵された弱々しい姿に接し、コルデーの心は揺れていたという。しかし、コルデーが差し出したデタラメな「反革命的人物」のリストを見たマラーは「なるほど、お嬢さん。こいつらを即刻ギロチン台に送って差し上げよう」と返答。これを聞いてコルデーは殺害の決意を固めたという。


コルデーは隠し持っていたナイフでマラーの心臓を一突きにする。ほぼ即死であった。


コルデーは逃走を図ることもなく取り押さえられた。裁判にかけられた彼女にギロチンによる死刑の判決が下る。しかし、死を覚悟していた彼女の態度は終始、毅然としたものであったという。


代々、パリの死刑執行人を勤めたサンソン家の4代目当主で、ルイ16世の処刑も執行したシャルル=アンリ・サンソンも、彼女の美しさと毅然とした姿に感嘆している。


「彼女を見つめれば見つめるほどいっそう強く惹きつけられた。それは、たしかに彼女は美しかったが、その美しさのせいではなく、最後の最後までなぜあのように愛らしく毅然としていられるのか信じられなかったからであった。」(サンソンの日誌より)


物見高いパリの群衆の前で、コルデーは、自らその首をギロチン台に差し出したーー


そこで、奇妙なことが起こる。興奮したサンソンの助手が、落ちた彼女の首を見物人に掲げ、その頬に平手打ちしたのだ。すると、彼女の頬はまるで生者のように紅潮したという。


見物人たちは、助手の行為に非難の声を浴びせた。サンソンは、その助手をすぐに解雇したという

関連書籍

『群衆心理』ル・ボン/原作(講談社まんが学芸文庫)

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