『お笑いの順番と場所』について3冊で考える日々。

文字数 2,249文字

お笑いファンに絶大な支持を得るコント師・ゾフィー上田航平さんは、実は大の読書家!

気が付けば読んだ本たちが自分の生活をどんどん浸食していって――!?

本に栞を挟み込むように、お笑いの日常にすきあらば最近読んだ本の話を挟み込んでしまう――栞な日々、スタートです!

コンビを結成してから9年、初の全国ツアーが終わりました。東京、大阪、名古屋、仙台全国4都市で「傑作選」という形で(完全赤面駄作も含め)100本あるコントの中から厳選したコントをお届けしたのですが、このコントをどう並べるかを考える時間がとっても至福でした。

自殺を止めるコントと自殺を止められるコントを対にしてみたり。

人生を野球に例えていると野球のコントが始まったり。

同じコントでも順番によって見え方が変わります。笑えるものすら笑えなくなることだってあります。

だからお笑いの賞レースにおける順番はゾッとするほど結果に影響するのです。

恐ろしい。

逆に普通につまらなくてスベッただけなのに「順番がなぁ」と腕を組んでいる人に我々は何も言えません。

本当に恐ろしい。



場所が変われば反応も変わります。

東京でウケても、他ではウケなかったり。

逆もまた然りです。

そのもの自体が何も変わらなくても印象が変わってしまうのです。

例えば無人島に漂流したシェフや大工が活躍できたとしても、レフェリーは仲間外れにされるかも知れません。

レフェリーは何ひとつ悪くありません。ただ場所が変わっただけで陰口を叩かれたりあいつがアウトなんて言われたりしてしまうのです。

『才能をひらく編集工学』(安藤昭子著)には、「世の中はすでに誰かが区切った跡の組み合わせで出来ている」と書かれていました。

その線が感情を込めたかかとで引いた線だとよりタチが悪い。

たとえば「メディアが情報を切り取って印象を操作をしている」なんて話はしょっちゅう聞きますが「そんなメディアは邪悪だ」という印象操作には気付かない。

そこには「怒り」という感情に惹かれて引いた線がしっかり刻まれているからです。ただ感情に身をまかせて世の中を見るとろくなことがありません。

『共感という病』(永井太右著)には「共感とは誰かの困難に対してではなく、困難に陥っている自分側の誰かに作用しているといえます。まさに共感は差別主義者なのです」とすら書かれています。

共感できれば応援するし、共感できなければ排除することさえある。

たとえ人間として抱えている苦悩が同じでも、美形金持ちインフルエンサーの悩みを真摯に受け止めることができるのか。

自分がモテない金無しゼロ影響人間だったら肩を組めるのか。

イケイケインフルエンサー同士だったらわかりあえても、ぽんこつインフルエンサー集団に囲まれたら誰もわかってくれ逆に袋叩きされてしまうことも。



だから場所というのはすごく大事なのです。

自分たちのファンの前でやって爆笑している人も、ファンがいないところでやったらドンズベリすることもあるのです。

おぞましい。

逆に普通につまらなくてスベッただけなのに「場所がなぁ」と眉間に皺を寄せる人に我々は何も言えません。

本当におぞましい。

『なぜあの人のジョークは面白いのか?』(ジョナサン・シルバータウン著)にはこんな話が出てきます。

6人の目が見えない人の前に1匹のゾウがいる。1人はゾウの側面を触って「ゾウは壁のようだ」と言い、1人は牙に触って「ゾウは槍のようだ」と言い、1人は鼻を触って「ゾウはヘビのようだ」と言い、1人は足を触って「木のようだ」と言い、1人は耳ではたかれて「うちわのようだ」と言い、1人は尻尾に触って「ロープのようだ」と言う。

それぞれ部分的には正しかったもののみんな間違っている。この話は部分で全体は把握できないという話でもありますが、部分をいくら結合しても全体にならないことがあるということでもあると思います。

「ロープのような木」でも「槍のような壁」でも、いくら部分を繋げても実は全体にはならない。

悪印象が続いたからといって、あくまで全体は見えていないことを肝に銘じなければなりません。



とはいえ最低連発下劣野郎がいたら絶対にムカついちゃいますけど。

せめて「この最低印象続き野郎が!」って言ってやるべきなのかもしれません。

でももし、あなたの目の前に、どんな順番でも、どんな場所でも、ずっとスベり続けている人がいたとして「あくまで印象だからなぁ」とつぶやいていたら、さすがに強がっているだけなので優しい言葉をかけてあげてください。

今回挟み込まれた本たちは――

『才能をひらく編集工学 世界の見方を変える10の思考法』

安藤昭子著

ディスカヴァー・トゥエンティワン

定価 1,980円(税込)



『共感という病』

永井陽右著

かんき出版

定価 1,430円(税込)



『なぜあの人のジョークは面白いのか? 進化論で読み解くユーモアの科学』

ジョナサン・シルバータウン著

東洋経済新報社

定価 1,760円(税込)

上田航平(うえだ・こうへい)
1984年生まれ。神奈川県出身。慶應大法学部卒。2014年にサイトウナオキとゾフィーを結成、2017年、2019年「キングオブコント」ファイナリストとなった。また、ネタ作り担当として、「東京03の好きにさせるかッ!」(NHKラジオ第1)でコント台本を手がけるなど、コンビ内外で幅広く活動している。趣味は読書とサウナ。なお、祖父は神奈川県を中心に展開する書店チェーン店「有隣堂」の副社長を勤めたこともある。

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