『素数とバレーボール』文庫化によせて/平岡陽明
文字数 1,190文字
『僕が死ぬまでにしたいこと』でロスジェネ世代の鬱屈を描いた平岡さん。
今作も、登場する元高校バレーボール部員の5人は、41歳のロスジェネ世代。
孔子のいう不惑の年も越え、厄年を迎え、夢も希望もほどよく諦めたけれど、まだどこかで捨てきれない。そんな5人に届いた元部員仲間からの思いがけないプレゼント。5人それぞれの選択は──。
ロスジェネ世代でも、そうでなくても、ふと立ち止まった時に読むと、じんわり心にしみる平岡さんの作品。「素数」と「バレーボール」? と気になるタイトルのヒントにもなる、平岡さんの文庫化記念エッセイをお届けします。
素晴らしき二つのもの 〜『素数とバレーボール』文庫化に寄せて〜 / 平岡陽明
人は年齢の呪縛から逃れることはできない。
どんな人にも15歳にはそれなりの生の躍動があり、40歳には生の疲労があり、70歳には生の熟成がある。
ところが経済的な呪縛からは容易に解放されることができる。
誰しも一度は「宝くじが当たったら」と空想したことがあるだろう。
要は大金が転がり込んでくれさえすれば良いのだ。
それが実現しそうになってしまったらどうなるか。
それも41歳という、一種、宙ぶらりんな年齢で。
この小説はそれについて考えた思考実験小説といってもいい。
それが登場人物の18歳の「とき」と重なる青春小説でもある。
人生に多くは望むまい。せいぜい二つの素晴らしいものと出会えたら良しとすべきだろう。
それは「ロックとワイン」かもしれないし「サッカーとラーメン」かもしれないし「素数とバレーボール」かもしれない。
私の場合はどうかって?
いまのところ「家族」と、最近飼い始めた「猫」と答えておこう。
どちらもこの上なく大切だけれど、一向に私の言うことを聞いてくれないという共通点がある。
平岡 陽明(ヒラオカ ヨウメイ)
1977年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務を経て、2013年『松田さんの181日』で第93回オール讀物新人賞を受賞し、デビュー。’20年『ロス男』(文庫化に際し『僕が死ぬまでにしたいこと』と改題)が吉川英治文学新人賞の候補になる。他の著書に『眠る邪馬台国 夢見る探偵 高宮アスカ』『道をたずねる』『ライオンズ、1958。』『イシマル書房編集部』『ぼくもだよ。神楽坂の奇跡の木曜日』がある。
41歳の誕生日おめでとう。高校のバレーボール部仲間、ガンプ君から届いたのは、500万ドルのストックオプションプレゼント。メールを受け取った同い年の部員4人は久しぶりに再会し、メールの真偽とガンプ君の消息を探り出す。不惑を越え厄年を迎えた大人たちが、人生の折り返し地点で選びなおした未来とは。
(インタビューは単行本刊行時のものです)