五十嵐様

 

小説はほとんど読まないのですが、僕が知っている範囲では、映画や漫画や小説の85%以上は「復讐」がストーリィの骨格にあります。ミステリィも、もちろん「復讐」でしょう。僕が子供の頃に体験した物語では、多くは暴力には暴力で、という結末でしたが、この50年くらいで、少しずつ「後ろめたさ」を感じるようになったのか、和らぎました。ハリウッド映画でも、「とどめ」を刺さなくなったようです。そのかわり、「天罰」で悪者が死にます。

 

現実では、とどめを刺せないどころか、明らかな悪者にも天罰が下りません。大衆は、もやっとした感情を抱いているはずです。そこで、せめて言葉だけでも相手を罵(ののし)りたい、といった感情がネットで表面化しているのかも。ただ、その言葉を真に受ける子供がいると悲劇です。

 

「正義」とは何か、というテーマは、僕も常々考えるところです。考えるほど答が遠のく問題ですけれど、小説であれば、その複数解を示すことができるかもしれません。小説の持っている有意義な特徴の一つといえます。

 

小説のもう一つの特徴は、「なんでもあり」な点、自由さです。これは、僕も小説家になるまで知りませんでした。デビューを目指す人は、なんでもありではなく、ある程度まとまっていなければなりません。とりあえず選考委員や編集者に受け入れてもらわないと作家になれないからです。良い編集者は、なんでもありだと言いますが、そうでない編集者は、売れるものを求めます。ただし、過去に売れたものを知っているだけで、これから売れるものを知っている人はいません。

 

デビューして作家になってしまえば、もう自由です。なんでもありだと思いますよ。まとまっている必要もないし、こういうものだ、と思われているものに縛られる必要もありません。読者は、編集者よりも幅広く分布しているので、なにを書いても受け入れてくれるでしょう。

 

どうかご自由にご活躍下さい。


作品タイトル:【インタビュー・対談】

記事名:森 博嗣 × 五十嵐律人  往復書簡

作者名:メフィスト  mephisto

|その他|連載中|7話|38,361文字

メフィスト賞 , 真下みこと

インタビュー