五十嵐様


そうですね、どういうことをしたら犯罪になるのか、教えてもらっていないのに、逮捕されてしまいます。「知りませんでした」では済まないわけです。契約していないのに違反になる。しかも、一方的に法律が変わることがあって、知らないうちに犯罪になる場合もありますね。


法廷ものは、洋画で古くから名作が幾つかありました。他者を説き伏せなければ、正義が成り立たない、というのは、日本にはない文化だと思いました。日本もこれからそうなっていくのでしょうか?


人を殺したら、どれくらいの罪になるのか、市民はぼんやりと思い描いている程度です。そうそう、現実が小説と違うのは、本人が「私がやりました」と自白しても、重要な証拠にならない点でしょうか。また、一般市民は、悪いことをした人には反省してほしい、謝罪してほしい、という気持ちを持っていますが、実際には、反省や謝罪は、殺人犯から直接は聞けませんね。それで、小説にそれらを求めるのでしょう。


理系ミステリィについてですが……、いえ、苦労したくないので、理系の舞台にしました。苦労といえば、「これ、非理系の人たちにわかるかなぁ?」と想像することくらいです。たとえば、「オリンピックの延期も中止も考えておりません」と偉い人が言いましたが、「え? 考えもしないなんて、この人、大丈夫?」と理系だったら不審に思います。「オリンピック中止の可能性はありません」とも言いきりましたが、未来をそこまで確定できることが驚異です。可能性はいつでも常にあるはずです。でも、それが日本人の普通の言葉遣いなのですね(例が不適切なときは、「オリンピック」を「消費税の減税」などに置換して下さい)。


弁護士を目指されているのですね。理屈が通る世界なのかな、と想像します。日本人は、「悪い人の味方をするなんて」と抵抗感を抱きがちですが、最近はだいぶ親しまれてきたでしょうか? 日本では、アメリカのように超人気で憧れの職業、とまでならないようですが、環境の何が違うのでしょうね?


作品タイトル:【インタビュー・対談】

記事名:森 博嗣 × 五十嵐律人  往復書簡

作者名:メフィスト  mephisto

|その他|連載中|7話|38,361文字

メフィスト賞 , 真下みこと

インタビュー