メフィスト賞2022年上期 印象に残った作品

文字数 1,362文字



座談会にはあと一歩届かなかったけれど、編集部員が読んで印象に残った作品を公開いたします。


(応募受付順)

『Organic』

 読みやすくわかりやすい文章です。設定と世界観を読ませる作品で、ストーリーはやや弱く感じられます。物語の強度が上がると小説としての魅力が増すと思います。


『ハッピーマン・クライシス』

 幸福度が高い主人公が狙われるという設定、日常の中で突然事件に巻き込まれる冒頭がとにかく面白かったです。事件の渦中にいない人々はどのように暮らしているのかなど小説世界全体の設定を詰めて考えていただきたいです。


『暗闇の中に』

 導入から柄が大きく、また専門的な知識で作品世界に引き込まれました。登場人物たちの造形はやや型通り。話はまとまっていますが、冒頭が派手な分、小さくまとまってしまった感じがしました。


『運命はGENESCOPEの中に』

冥 近未来を舞台に、「遺伝子」を物語の中に溶け込ませる手腕がスマートで、好感を持ちました。心地よく展開する物語で、とても読みやすかったです。もっと大胆に、破綻を恐れず、読者の予想を裏切る展開を加えると柄がさらに大きな作品になったかもしれないなあと思いました。


『オルトにはまだ早い』

冥 心霊ドキュメンタリーの撮影と怪異。とても好みの題材でした。理で説明できない不思議な現象を、説得力ある形で提案する文章の力もあって、強い作品だなあと思いました。次作も楽しみです。


『帝都彩煙猟奇譚 巽恭一郎の復活』

巳 ノスタルジィを感じさせる帝都を舞台にしていて、作者の自作品への愛情が伝わってきます。童話のような世界観に残虐な犯罪の組み合わせが生々しく魅力もありますが、世界観と設定を描くことに注力されていて、物語が会話で展開されすぎており、やや散漫な印象が残りました。


『坂の上の猫は水瓶座である』

U 読みやすく温かみのある筆致で、最後まで楽しく読ませていただきました。登場人物たちの一癖ある設定や名付けに、著者のセンスが感じられてとても素敵です。事件自体がどうしてもふわっと解決してしまうところに読み足りなさを感じたため、座談会に推せませんでしたが、これからの作品も楽しみにしています。


『メコンにのぞむ町』

 文章が本当に美しく、読み進めるとヒーリング効果があるように感じられるくらいでした。一ジャンル一作家、と言われるメフィスト賞との相性はあまり良くないのかもしれません。


『犯人は元からいない嵐の中の洋館』

巳 タイトルでネタバレしているユーモアミステリー。文章のテンポがよく、導入部分に期待を煽られ楽しく読みました。他殺と思われたが実は……、という一点突破なので長編としては弱い。また嵐の山荘という設定が活かしきれていないように感じました。


『虚構の逃げ道』

海 読みやすく親しみやすい文体でぐいぐい読み進めました。テンポ良く進んでいきますが、「謎」を解決することのみに注力して、そのほかの、人物たちの感情や日常生活の描写が少なめで読みごたえとしては少し物足りなく感じられるかもしれません。


『架空天体小説 色を変える太陽』

巳 叙情的なSF小説で作者の美意識が感じられます。クラシカルな魅力のある作品だと思いました。設定や世界観がしっかり描かれていますが、ストーリーラインが摑みづらかったのが残念です。

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